ISはアッシリア王国の再現?


 イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)はアッシリア王国の再現という話を聞いた。実証が難しく、思い付きの域を出ない感じがするが、新鮮な観点なので読者に紹介する。

 アッシリア王国はメソポタミア(現在のイラク)北部の地域の王国で、ティグラト・ピレセル3世の治世時代に栄えた。紀元前7世紀初頭にはニネベを首都にメソポタミアからエジプトまで支配下に置いたオリエント最初の統一帝国を建設したが、分裂と反乱から紀元前612年に滅亡した。

 ISは21世紀に現れたイスラム教スンニ派過激派組織だ。ISはイラクとシリア両国の国境付近を武力制圧し、「カリフ国家」を宣言し、欧州から中国までを支配下に置くイスラム国の建設を夢みている。

 アッシリア王国と「イスラム国」は支配地が重なるだけではない。人質に対する野蛮な行為は似ている。アッシリア王国のイスラエル民族への蛮行は現代の「イスラム国」のそれを凌ぐほど野蛮なものだったという。「イスラム国」は人質の首を斬り、高台から突き落とすなど蛮行を繰り返し、世界を震撼させているが、アッシリア王国はイスラエル人の皮膚を生きたまま剥ぎ取るなど冷血なやり方で虐殺していったという。

 21世紀の「イスラム国」が登場した背景を考える上で、アッシリア王国と関わったイスラエル民族の歴史を少し振り返る必要があるだろう。 ヤコブから始まったイスラエル民族はモーセに率いられたのち、神が約束した“乳と密の流れる地”カナンに入り、民族を形成したが、民族をエジプトから導いた神を忘れ、偶像神崇拝に陥った。神は預言者を送り、イスラエル民族に悔い改めを求めたが、彼らはその声に従わなかった。旧約聖書の列王紀では、神は、「いつまであなた方は2つのものの間に迷っているですか」と預言者に語らせている。イザヤ書7章では、「その日、主は大川の向こうから雇ったかみそり、すなわちアッスリヤの王をもって、頭と足の毛とをそり、また、ひげをも除きさられる」と記述されている。

 異教の神を拝みだしたユダヤ民族は南北に分裂し、北イスラエルは紀元前721年、アッシリア王国の捕虜となり、南ユダ王国のユダヤ人たちはバビロニアの王ネブカデネザルの捕虜となったが、バビロニアがペルシャとの戦いに敗北した結果、ペルシャ王クロスの支配下に入った。北イスラエルはアッシリアに壊滅され、地上から消えた(南ユダ王国の国民はクロス王朝時代に再びエルサレムに帰還)。

 21世紀の「イスラム国」はイスラム教のシーア教徒を殺し、中東地域の少数宗派キリスト教徒を迫害している。同時に、欧米のキリスト教資本主義社会を腐敗した異教世界と見なし、“聖戦”を呼びかけ、破壊を続けている。「イスラム国」は世界の全てを敵に回し、テロを繰り返し、恐怖を与えている。ISの今後はもうしばらく待たなければならないが、アッシリア王国と同様、地上から消滅するのは間違いないだろう。

 ちなみに、アッシリア王国の侵略を選民イスラエル民族への“神の刑罰”という観点から受け取るように、「イスラム国」の登場を人類の神の刑罰と受け取る見方は、一般的な歴史観とは異なるだろう。

 ただし、歴史から教訓を引き出すという立場からいえば、「イスラム国」をアッシリア王国の再現と見る歴史観は非常に興味深い。それでは、21世紀に生きるわれわれはアッシリア王国現代版の「イスラム国」の登場から何を教訓として引き出さなければならないのだろうか。ユダヤ教から継承したキリスト教社会とイスラム教社会の覚醒が求められているのだろうか。

(ウィーン在住)