恐怖の血のスープ
地球だより
それぞれの国に根差した伝統的な食文化は、他国から見ると実に異様なものであったりする。わが国の海苔(のり)や納豆にしても、前者の黒い色や後者の匂いに閉口する外国人は少なくない。
ベトナムだとさしずめ「豚の血スープ」だろう。これは豚の血に軟骨やホルモンを入れてゼリー状にし、ピーナツや香草と合わせたもの。特に北部では、好んで食べられ酒の肴(さかな)には定番となっている。
ハノイ市の中央熱帯病院はこのほど、その「豚の血スープ」を食べてブタレンサ球菌に感染した患者数人を受け入れている事実を明らかにし警告を発した。患者は全員発症し、敗血症または髄膜炎を起こし、昏睡(こんすい)状態に陥っているという。いずれも血のスープを食べた後、高熱や頭痛、下痢、さらに皮下出血、多臓器不全などの症状で病院に運び込まれたとされる。豚の血スープはしばしば感染症の原因となってきた経緯があり、治療が遅れれば死の制裁を受けかねない恐怖のスープだ。
民間療法的に「殺菌作用のある酒と一緒に飲めば大丈夫」と自己暗示をかける人が多いのが実情だが、健康リスクの高いスープであることは間違いない。
なおカモの血スープもベトナムの伝統食の一つだ。これはカモの血に砂肝、ピーナツと香草を混ぜ、煮込んだもの。血液が凝固することで、ゼリーのようなプルプル感が出てデザート感覚でも食べられる。ただ、鳥インフルエンザが流行したことで、カモの血スープの人気は一気に凋落(ちょうらく)し、今ではあまり食べられることはなくなった。
(T)