難民・避難民と神の「約束の地」


 20日は「世界難民の日」」(World Refugee Day)だ。ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は17日、一般謁見の場で武力紛争地からの難民の保護と共に、難民が生まれる原因の解明とその対策を訴えた。ローマ法王は、「故郷を追われ、新しい住む地を探す兄弟姉妹が不安なく生活できますように祈ろう」と呼び掛けている。

ジュネーブに本部を置く国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は9日、今年に入って地中海を超えて欧州諸国に渡った難民数は同日現在10万3000人に達したと発表した。そのうち、イタリアが最も多く、5万4000人、そしてギリシャの4万8000人という。UNHCRによると、昨年末の時点で難民、避難民の総数が5950万人だったという。

 欧州諸国は、海路や陸路を通じて欧州の地に殺到する難民の収容に腐心し、難民の公平な受け入れ枠を検討しているが、積極的に難民を受け入れる国はないのが現実だ。

 以下、2、3の欧州の難民事情を紹介する。

 先ず、オーストリアでは各州の難民収容所は既に超満員。そこで収容所内の空地にテントを設置して難民たちを収容しているほどだ。冷戦時代、旧ソ連・東邦諸国からの難民収容所だったニーダーエステライヒ州のトライスキルヒェン難民収容所では、収容しきれない400人以上の難民がテント生活を強いられている。

 「難民がテント生活」というニュースが流れると、野党「緑の党」から「難民の人権を傷つける。早急にテントを回収し、収容所に移すべきだ」という声が飛び出した。ローマ・カトリック教会の慈善組織「カリタス」関係者も、「雨が降ればテント生活では濡れてしまう」と指摘、早急に収容所を探すべきだと主張。それに対し、ヨハナ・ミクルライトナー内相は、「緊急処置だ。難民が収容できる場所が見つかればテントは回収する」と説明。国防省は4カ所の兵舎を新たに難民収容所に提供する意向だ。

 隣国ハンガリーではセルビア経由で殺到する難民対策のため対セルビア国境線に高さ4メートルの塀を作る計画が進行中だ。同国ではシリア、イラク、アフガニスタンなどの紛争地から多数の難民がセルビア経由でハンガリー入りし、これまで4万5000人が難民申請をしたという。ちなみに、ハンガリーでは昨年4万3000人の難民がハンガリー入りした。2012年はその数は約2000人に過ぎなかった。

 2011年のシリア内戦勃発以来、ブルガリアでは陸続きで欧州入りを目指す難民たちがトルコ経由で殺到している。それを防ぐため、ブルガリア政府は13年、トルコ国境線沿いに30キロメートルの鉄条網を建設したが、それでは十分でないとして、ハンガリーと同様に、鉄条網をトルコ国境線全160キロに拡大する計画という(「21世紀の“招かれざる客”と『壁』」2015年5月9日参考)。

 難民の中には欧州でよりよい生活を夢見る経済難民も多く、人身売買グループに大金を払ってきた難民もいる。一方、欧州諸国も金融危機以来、国内経済は低迷、失業者は増加し、その対策に追われている。だから、難民への人道的支援と具体的な収容能力の間で苦悩する国が少なくないわけだ。ここにきて、「経済難民と判明すれば、即送還すべきだ」という声が高まってきている。

 エジプトから出国したユダヤ民族は、“乳と密の流れる神の約束の地カナン”を目指して荒野の流浪の日々を過ごした。そして民族が待ち望んできた救世主イエス・キリストが2000年前降臨したが、彼を十字架にかけてしまった。その後、ユダヤ民族は再びディアスポラ(離散)となって世界に散らばっていった。一方、中東・北アフリカの紛争から逃れ、避難する21世紀の難民たちは、より安全で、より豊かな欧州の地を目指す。迎える側の欧州の国民は、「われわれのボートはもはやいっぱいだ」と叫ぶが、難民の耳には届かず、彼らは欧州の地が安全で豊かだと信じている。欧州の地が彼らの“神の約束の地”ではない、と分かっていてもだ。

(ウィーン在住)