「中国には十分な空間がある」


 中国習近平国家主席は17日、訪中のケリー米国務長官に、「太平洋には米国と中国2カ国を受け入れるのに十分な空間がある」と述べ、南シナ海を含むアジア地域の覇権を米国と分かち合う2大国構想を表明したという。

 習近平主席の発言を読んで、「太平洋は確かに広大だが、中国も10億人以上の国民を養うことができる広大な領土を有している」と思い出し、習主席の発言に倣って、「中国には十分な空間がある」というキャッチフレーズが浮かび上ってきた。

 中国は多民族国家だが、中国共産党が政権を掌握して以来、独裁政権を維持してきたことは周知の事実だ。その中国が南シナ海の海洋権益をめざし、スプラトリー(南沙)諸島で人工島建設を進め、東南アジア諸国から懸念の声が上がっている。中国の覇権主義に対して、日本や米国は度々警告を発してきたが、中国側は、「南シナ海はわが国の影響下にある」と主張し、その覇権をこれまで繰り返し表明してきた。

 中国側の覇権主義に警告するという意味から、ケリー米国務長官が習近平主席に、「太平洋だけではなく、中国にも(米中2カ国を受け入れるのに)十分な空間がありますね」と述べたとすれば、北京政権は、「米国がわが国に戦争宣言した」と受け取り、パニックに陥ったかもしれない。

 中国は実際、広大な領土を有している。民族も多彩だ。韓族のほか、ウイグル族、モンゴル族など多数の少数民族を抱えている。ただし、中国の経済発展の恩恵は北京、上海、広州など一部の地域に傾き、まだまだ未開発地が少なくないことも現実だろう。

 ここにきて中国共産党にも陰りが見えてきた。共産党から脱退する数が先月14日、ついに2億人を超えたのだ。海外の反体制派メディア「大紀元」は、「中国共産党から『脱党』に署名した中国人は14日までに2億人を超えた。共産党が暴力で政権を奪い、独裁体制を敷いて65年。13億人は自由への抑圧や汚職氾濫、自然環境の悪化に苦しんでいる。脱党は、中国人の精神や道徳を共産党の束縛から解放し、自由を選択する1つの切符となっている」と報じている(「中国で来年『3退』総数が2億人突破」2014年12月5日参考)。

 経済分野でも異変が見られてきた。貧富の格差が拡大し、裕福な党幹部たちの海外移住が急増している。もはや、10年前の中国ではない。「大紀元」が4月27日報じたところによると、「中央政府直轄の『中国兵器装備集団』の子会社が21日、8550万元(約16億4000万円)の債券利息のデフォルトを発表、債務不履行に陥った初の中国国営企業となった」という。その前日には、広東省深セン市の大手不動産開発会社「佳兆業集団」が、5160万ドルの米国債利息が支払い不能になったという。一連のデフォルトは中国経済が危機にあることを示しているわけだ。

 中国共産党政権が南シナ海の覇権拡大に乗り出してきたのは、資源問題もあるが、それ以上に軍事的緊張を高めることで国内のさまざまな諸問題から目を逸らさせる戦略ではないか。そうであるならば、「中国には十分な空間がある」と警告を発することで、中華思想という「中国の夢」に拘る指導者を現実の世界に引き戻すのも外交の知恵だろう。実際、中国共産党政権は太平洋に目を向ける余裕などないのだ。

(ウィーン在住)