党派政治にエジプト国民が怒り


地球だより

 エジプトのモルシ前大統領が4月21日、反政府デモへの暴行に関与したとして、禁固20年の有罪判決を受けたが、日本のメディアが、モルシ氏を紹介する上で好んで使う表現に、「エジプト史上初めて公正な選挙で選ばれた民選大統領」との表現がある。

 確かにそれは事実なのだが、そこには、同前大統領が在任中、どんな反国民的な政治を行い、国民からの大きな反発と怒りを受け、大統領職を剥奪されたかの側面は隠され、いかにも国民に支持されて善政を行った大統領であるかのような印象を意図的に与えようとしている感じを受けてしまう。

 モルシ氏は、大統領選中に公約した、コプト教徒(エジプトのキリスト教徒)と、女性を副大統領にするとの公約を、早々と破棄、全国民どころか、同氏の出身母体「ムスリム同胞団」の利益のみを考えた、「同胞団政治」に堕したことが、国民の反発と怒りを買い、同国最大級のデモを背景にしたシシ元国防相らによって起こされた政変によって失脚させられた。

 モルシ氏は人事権を最大限に利用して、大臣や知事、各種団体の長の、イスラム主義者偏重人事を断行した。国民を驚愕(きょうがく)させた最たる人事は、ルクソールの知事に、1997年のルクソール事件(邦人10人を含む観光客ら62人死亡)を指揮したイスラム過激派の人物を任命したことだった。国民の猛反発を受け、任命された人物自身が辞退した。

 クーデターとの言葉の使用を慎重にしながらも、実質クーデターと見做(みな)し、軍事支援を一時停止した米国は、選挙の洗礼を受けたシシ政権を実質承認、3月31日、軍事支援の全面再開に踏み切った。

(S)