靴磨きのきんちゃん


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 彼は世界最高の靴磨きだ。名前はあるが、ただの「靴磨きのきんちゃん」で通じる。日本・東京の最高級、帝国ホテルの一番隅っこが彼の42年間の仕事場だ。

 しがない靴磨きの老人には、彼を認める巨人がいた。少し前に他界したシンガポールのリー・クアンユー初代首相が彼から人生を学んだという。21年前に初めて訪ねたリー氏は、心を込めて靴を磨く彼の態度に無限の感動を覚えた。その後、リー氏は日本を訪問するたびに必ずここに立ち寄って靴を磨いた。きんちゃんはいろいろな国に常連客を持つ有名人だ。日本への出張を待って、下駄箱の靴を全て持参する米国のお得意さんがいるほどだ。

 ホテルの靴磨きコーナーを守り続けるきんちゃんは日本の職人魂のシンボルだ。日本は代々、固有の技術とノウハウを蓄積する伝統がある。長寿企業の多さも際立っている。地球上に1000年を超える企業は八つだけだ。そのうち七つが日本にあり、残る一つがドイツにある。国土と人口がそれほど大き(多)くない両国が世界市場を牛耳るのも“偶然の産物”ではないのだ。

 シンガポールの国父が靴磨きの老人を訪ねるわけは個人的な親交のためだけではないはずだ。恐らく彼の姿から強大国・日本の精神を身をもって感じたかったのだろう。リー氏は回顧録にきんちゃんの話を書いた。「今まで見たことがないほど靴をきれいに磨いた。日本人は自分の仕事に自負心を持っている。何かを行う時は、自分の能力の最大限まで行う。それが日本の成功を導いた」。国父は生前、日本人の勤勉さを学べと国民を督励した。日本支配の痛みを知るシンガポールの“克日”方式だ。

 リー氏の願いは現実となった。シンガポールは8年前、1人当たりの国民所得で日本を追い抜いた。シンガポールと同じ日本統治の痛みを持つわが国はまだ反日に留(とど)まっている。慰安婦の蛮行を糾弾する水曜集会は24年間続いている。そうしながらも、我々自身の反省はたるんでいる。慰安婦の実情を十分に記述していない歴史教科書までざらにあるのが現実だ。反日だけあって克日はない。

 靴磨きのきんちゃんは「靴を磨く10分間は世界の一流を独占できる」と言った。黙々と自分の立場で最善を尽くす老人に日本の底力を見る。靴は決して自(おの)ずから光沢を発しない。日本の靴磨きの老人が我々にまた一つの宿題を投げ掛けた。

(3月31日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。