赤十字社総裁の強弁


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 人事の専横を警戒する時に必ず言及されるのが、西晋の皇帝、司馬倫と宋の太祖、趙匡胤の故事だ。司馬倫はクーデターを起こして帝位を簒奪(さんだつ)した後、民心を収拾するため官職を大盤振る舞いしようとした。重臣たちが「そんなに簡単に官職に就けるのであれば、誰が官職を願って陛下に忠誠を尽くしましょうか」と反対したが、奴婢(ぬひ)たちにまで官職を乱発し間もなく悲惨な最期を迎えた。

 趙匡胤は曹彬将軍に丞相(じょうしょう)の地位を約束し江南の諸侯国・南唐の討伐を命じた。曹彬は任務を完遂して帰ってきたが、(太祖は)丞相の代わりに金銀財宝をもって戦功を称(たた)え、曹彬から「もうこれ以上、職位に執着せず、死ぬ日まで忠誠を尽くす」との誓いを得た。功に報いようとするなら地位よりはむしろ金銭を与える方がましだという歴史の教訓だ。

 そうだとばかり思っていたので、それゆえ大量の落下傘人事(権力者が支持者たちを能力や適性にかかわらず重責に任ずる人事)が行われる度に気分は良くなかったが、落下傘・報恩人事が必ずしも悪くはないと悟らせようとしているのだろうか。専門性を持たない弱点も時には長所として作用する可能性が全くないとはいえないことを教えようとしているのか。反対を押し切って執拗(しつよう)に支持者を任じようとする理由があるのだと主張するようでもある。つじつまの合わない、辺りはばからない赤十字社総裁の言行のことだ。

 赤十字会費を5年間、一銭も出さない実業家出身の金ソンジュ大韓赤十字社(以下、韓赤)総裁が一昨日、就任式で会費未納への非難に対して「韓赤がそれだけ多くの国民の頭の中で忘れられた奉仕団体になったようだ」と述べつつ、「私が最初に行う第一(の任務)は、忘れられた大韓赤十字社を一番素晴らしい奉仕団体に“リブレンディング”することだ」と語った。大学学長まで務めたという韓赤中央委員は祝辞で「『今度の機会に確実に募金することについて本来の姿を取り戻すシステムを構築し、二度とそんなことが起こらないように備えることができる方が来られたな』と思って、期待するようになった」と述べた。

 二人の発言の意味をくみ取れずお笑い番組の材料にでもされないか心配だ。“奇跡を生む30㌢の紙”である赤十字会費の振込用紙を受け取っても、知らないふりをしてやり過ごす人たちが増えないか心配だ。赤十字会費の募金対象は増えるのに、参加率と募金率はますます下がって半分にもならない。金総裁が生み出す奇跡を見てみたい。赤十字会費の募金システムを確実に構築できれば不幸中の幸いだが…。

(10月18日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。