韓国次期大統領、潘国連事務総長に白羽の矢

世論調査で圧倒的1位

折衷型、リーダーシップ難も

 潘基文国連事務総長(70)が2017年の次期韓国大統領選挙の有力候補としてにわかに浮上している。韓国では国連トップまで登り詰めた立志伝中の人物で、理念的にあまり偏らない中道派のイメージにも好感が持たれているが、リーダーシップに難点ありとの指摘もある。(ソウル・上田勇実)

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ニューヨークの国連本部で演説する潘基文事務総長=9月24日、EPA=時事

 韓国世論調査機関ハンギルリサーチがこのほど実施した世論調査によると、次期大統領候補の支持率で潘氏は39・7%となり、朴元淳ソウル市長(13・5%)、前回大統領選の有力候補だった第1野党・新政治民主連合の文在寅議員(9・3%)、与党セヌリ党の金武星代表(4・9%)ら2位以下を大きく引き離し、圧倒的1位だった。

 これまで潘氏を次期大統領候補の一人と見なす雰囲気は、必ずしも広がっていたとはいえないが、韓国メディアは今回の結果を相次いで報道し、いやが応でも世論の関心は高まるものとみられる。潘氏の任期は2期目が切れる16年12月まで。それまで海外に居ながら政敵からの攻撃を防ぐことができるし、大統領選までちょうど1年というタイミングで本国カムバックとなれば、一気に波に乗れる効果があるかもしれない。

 潘氏は過去の大統領選でキャスチングボートを握ってきた中部の忠清道出身。外交官一筋にキャリアを積み、一時、金泳三政権で青瓦台(大統領府)の秘書官も務めた。国連事務総長になる直前は外交通商相として、当時、対北融和路線を敷いた盧武鉉政権下で北朝鮮の核問題など難問の対応に当たった折衷型の人物だ。

 温厚な人柄とされる一方、日本との関係では歴史問題をめぐり強硬な姿勢も見せている。昨年、歴代事務総長が慣例として言及してきた「歴史を消し去ることはできない」の表現をやめ、「日本政府や政治指導者」を名指しで非難し、職務上の中立性を犯したとの批判も受けている。

 もちろんまだ選挙まで3年もあり、その間、政局や南北関係などでいくらでも形勢が変わる可能性はあるが、与党陣営には人材不足という課題がある。朴市長や文議員、さらに現在はひと時の勢いを失いはしたが、企業家出身の安哲秀氏など野党陣営の候補者たちは粒ぞろいだ。だが、一方の与党はインパクトに欠けるのが実情。潘氏の人気にあやかり、与党候補に担ぎ出そうという動きが出てきてもおかしくない。

 ただ、仮に大統領選に出馬して当選したとしても、就任の時点ですでに73歳という高齢だ。5年間の大統領職という激務をこなすには負担が大きい。

 また国連事務総長としての国際的評価が実はあまり良くないため、指導者としての能力に疑問を呈する声も出てくるとみられる。中東問題やウクライナ情勢、地球温暖化、貧困問題などグローバルな課題に対する国連の能力はすでに限界があるのも事実だが、歴代事務総長の中でも潘氏は「際立って無能」(ニューズウィーク誌)と酷評され、リーダーシップ難が何度も指摘されている。

 仮にこのような国際的不評が続き、汚名返上するこれといった実績も残せないまま潘氏に白羽の矢が立てられた場合、韓国社会の成熟度にも批判が向けられる恐れがある。