対北送還の回顧


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 先月、黄海の軍事境界線に当たる北方限界線(NLL)を侵犯した北朝鮮の漁船を韓国海軍が拿捕(だほ)し送還した。調査の結果、エンジンの故障で漂流し船員たちに亡命意思がないと判断、6時間後に送還した。最大限早く善処したのだが、北朝鮮は最前線で決起集会を開き、「命令さえ下れば容赦なく砲弾の雨を降らせ、敵の牙城を第2の延坪島、火の海にしてしまうぞ」といって連日“復讐(ふくしゅう)”を誓っている。

 瞬く間に起こった「拿捕―送還」事件について自由北韓放送は「漁船の侵入は北朝鮮軍指令部の緻密な工作による事件で、拿捕された漁夫3人のうち2人は将校、1人も北朝鮮軍の軍属」だと報じた。北朝鮮住民の南朝鮮に対する敵対感情を高めるために計画的に組織された作戦ということだ。同事件を契機に北朝鮮は軍はもちろん、大学や中学、朝鮮民主女性同盟員にまで南朝鮮への敵愾心(てきがいしん)を喚起する講演、集会を行っている。

 今月は全羅南道の公海上でモンゴル国籍の貨物船が沈没し北朝鮮船員約10人が行方不明になったが、政府は救助された3人と2人の遺体を6日、板門店を通じて北朝鮮に送還した。追加の生存者や遺体も確認され次第、送還する方針だ。政府はこれに先立ち、朝鮮戦争で戦死し坡州市の積城墓地に埋葬された中国軍兵士437人の遺骸を先月28日に送還した。人道主義による美しい決定だ。

 しかし、あらゆる送還が美しいわけではない。金泳三政府の時に電撃的に断行された非転向長期囚・李仁模(リインモ)の送還は政治的で象徴的な措置だったが、2000年9月の非転向長期囚63人全員の送還は無謀だった。63人の中には辛光洙(シングァンス)という大物工作員がいた。辛は日本人拉致被害者の象徴、横田めぐみさんを拉致した張本人だ。韓国に潜入して逮捕され、安企部(国情院の前身の情報機関)の調査で金正日から直接、拉致の指令を受けたと自白した。

 日本政府はインターポールを通じ彼を国際指名手配し、韓国にも協力を要請した。ところが当時の林東源(イムドンウォン)国情院院長は、スパイやパルチザンを北に送還するなら韓国軍捕虜も送還されるべきだと主張した言論機関と国民を“冷戦守旧勢力”と決め付けてまで彼らを送還した。辛光洙の送還後、日本はわが国との対北情報交流を中断した。韓米日軍事機密保護協定が再び論じられているが、もう一つの非正常の正常化だ。

(4月14日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。