老人の無料乗車


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 地下鉄の老人無料乗車の始まりは全斗煥政権発足直前の1980年だ。オボイナル(=父母の日、5月8日)を迎えて、70歳以上の高齢者料金を50%割引したことから始まった。翌年に軍事政権が発足し、老人福祉法の制定によって「老人」年齢が65歳に下がった。当時、65歳以上の人口比率は4%にすぎなかった。軍事政権は1984年、“大金”をかけないで老人の100%無料乗車制を電撃的に施行した。その後、障害者、国家有功者に対象が拡大された。

 それから40年近くたった現在、経済開発と医学の発達などで人口構成は急激に変化した。2020年の人口住宅総調査を見ると、65歳以上が820万6000人となり、史上初めて800万人を突破した。人口全体に占める割合も16・4%まで上昇した。高齢化の速度はいっそう加速する見通しだ。今の趨勢(すうせい)ならば、65歳以上の割合が25年に20%、50年には40%まで増える見通しだ。20%以上なら「超高齢社会」に分類される。

 ソウル、釜山など6広域自治団体で構成される都市鉄道運営自治体協議会が昨日、無料乗車による損失の国費補填(ほてん)を求める建議文を発表した。6自治体が明らかにした無料乗車の累積赤字は23兆ウォンであり、この数値は引き続き増加するものと見える。ソウルを見ても、16年から20年までの無料乗車による損失は1兆6800万ウォンで、同期間の赤字全体の53%を占めている。

 無料乗車の問題は選挙の時期や国政監査シーズンになるといつも登場する定番のメニューだ。中途半端に手を出したら、800万人の老人票がなくなってしまうかもしれない核爆弾だ。この間の国政監査で、洪楠基経済副首相(兼企画財政相)は無料乗車の損失分の国費支援について、「限られた財源で国家を運営すると、財政の規律と原則によって行うしかない」としながら、「自治体で賄わなければならない」と語った。

 老人福祉の需要は毎年増加する。とは言っても、無料乗車の損失に際限なく国家の財政を投入することも未来の世代にとっては重荷だ。現在、政府レベルで老人年齢を70歳に引き上げる論議が進んでいる。運営主体の経営合理化も先決課題だ。政府・自治体の“爆弾回し”が老人たちの移動の自由まで断絶させるのではないかと心配だ。地下鉄の料金引き上げの名分も問題だが、無料乗車制がつくられた趣旨まで損なわれてはならない。

 (11月5日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。