ワクチン旅券


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 旅券は海外旅行客の国籍と身分を証明する国際身分証だ。旧約聖書には紀元前450年にペルシャの高官であるネヘミヤがユダヤに旅行したいと申し出ると、国王のアルタクセルクセス1世(アルタシャスタ王)が「川(国境)を越えても効力を発揮する文書を作成してあげた」ことを示す文章がある。旅券に関する最も古い記録だ。紀元後1世紀のローマ帝国の旅券にはこんな文句が記されていた。「もし地上や海上でこの旅行者を害するほど強い者がいたなら、その者をしてローマ皇帝と戦争をするほど自分が強いのか考えさせよう」。民を保護しようとするローマ皇帝の意思が表れている。

 旅券に対する視線がいつも優しかったわけではない。19世紀のフランス皇帝ナポレオン3世は「抑圧的な発明品」「役に立たない障害物」だといって、旅券を廃棄した。旅行・交流の活性化を妨害するというのが理由だった。しかし、旅券は復活した。国家安保や汽車旅行などに必要だったためだ。現代式の旅券は、第1次世界大戦の直後、1920年の国際連盟の会議で標準案が完成し、通用し始めた。

 旅券は進化する。2001年の9・11テロ以降、米国などは旅券偽造とテロ・不法移民の防止のために、生体認証技術を利用したIC旅券を導入した。指紋、虹彩、顔の形などの身体情報を保管したコンピューターチップを旅券に付けたIC旅券により、出入国時に簡単で早く身元を確認できるようになった。旅券に内蔵されたチップに、顔写真と個人情報が入った電子旅券も発明された。韓国は2008年から使用しているが、最初に発給されたのはコメディアンのキム・ジュノだ。

 今度はワクチン旅券だ。新型コロナウイルスのワクチン接種を立証するワクチン旅券がないと、海外旅行に行けない時代がくるものとみられる。米国・欧州の技術業者たちが、新型コロナワクチン接種履歴などの個人情報を盛り込んだスマホアプリやシステムの開発に乗り出した。

 ワクチン旅券はワクチン未接種者たちの自由な移動を制限する。韓国のようにワクチン接種が遅れている国は、国民が足止めされるしかない。韓国は旅券さえあればビザなしで旅行できる国が189カ国もある。世界199カ国中、日本、シンガポールに続いて3位だ。世界最高水準の韓国の旅券パワーが政府のワクチン政策の誤りで悪化するのではないか、心配だ。

 (12月30日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。