“歌皇”羅勲児
歌手の羅勲児(ナフナ)は今年73歳だ。1970年代の歌謡界は彼の世の中だった。歌手人生54年、半百年(半世紀)を超えた。数多くのスターが登場し消え去ったが、彼は違う。歳月が流れても光は失われなかった。先月30日、KBSで放映した無観衆の公演『大韓民国アゲイン羅勲児スペシャル―15年ぶりの外出』は爆発的な反響を呼んだ。公式視聴率は29%。今年、オルレTVの実時間瞬間視聴率は70%を超えた。
彼の全盛時代は70年代だろうか。舞台上のカリスマという観点で見れば、現在がむしろ絶頂期だ。『大韓民国アゲイン』は彼が企画を主導した。3時間にわたって流れた珠玉のような歌30曲。『ホンシ』(熟柿)、『カルムリ』(整理・片付け)、『永永』、『空』(無)、『18歳のスニ(女性の名前)』、『アダムとイブ』、『男の人生』、『男』…。大部分が自分が作った歌だ。華やかな舞台は世界的なミュージカル『オペラ座の怪人』を圧倒する。賛辞が続いた。「羅勲児でなければ、つくることができない舞台だ」。
カリスマはどこに由来するのだろうか。「私は夢を売る人です」。「歌詞を書くためには心に夢が多くなければならず、たくさんの本を読まなければなりません」。「54年間、歌手として生きてきたが、練習だけが特別なものを作り出します」。心中深く哲学の香りがぷんぷん漂っている。『15年ぶりの外出』のために、どれだけ熾烈(しれつ)な努力を重ねたのか押して余りある。
ソクラテスに世相を問いかける『テス兄』、妹の追憶を歌う『ミョンジャ』など新曲9曲も発表した。誰も持ちがたいカリスマが輝くので、彼を“歌皇”(歌の皇帝)と呼ぶ。努力は宝石のようなカリスマを生んだ。それがあるから感動があふれる。
苦言も呈した。「KBSは国民の声を聞く、国民のための放送でしょ。今に見ていてください。生まれ変わるでしょう」。こんなことも語った。「昔の歴史書を見ても、私が生きてきた間も、王や大統領が国民のために命を懸けたという人は、一度も見られなかった。この国を誰が守ったのか。まさしく今日の皆さんたちが守りました」「国民に力があれば、政治屋は生まれません」。
彼の言葉をめぐって政界ではまた攻防が続いている。嘘(うそ)を売る政治、夢を売る歌皇。どちらがソクラテスに近いのだろうか。歌皇・羅勲児はソクラテスに問い返すかもしれない。「テス兄、世の中はどうしてこうなの」。
(10月5日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。