“医師”安哲秀


韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

 明らかに安哲秀(アンチョルス)(国民の党代表)だった。汗まみれの診療服にゴーグルをつけていた。くぼんだ眼は疲れがにじみ出ていた。“政治家”安哲秀でなく“医師”安哲秀の姿だった。彼は夫人の金美暻ソウル大教授と共に新型コロナウイルス感染拡大に悩む大邱でボランティア活動をしている。昼食は弁当で済ませ、睡眠は病院近くのモーテルでとっているという。

 政界入りして10年目の安代表は医師が本職だ。ソウル大医学部で博士号を取得した後、檀国大医学部の学科長まで務めた。後にベンチャー企業を創設しコンピューターウイルス専門家として名を馳(は)せた彼は2011年に大変身を試みた。ソウル市長補欠選挙を控え、国民に嫌悪感を与える“政治ウイルス”を根絶すると言って政界に飛び込んだ。

 ところが政治は彼の専攻ではなかった。彼は「プールで泳げるようになれば、太平洋でも泳ぐことができる」と壮言したが、現実政治の波はプールとは違った。荒々しい政治の潮流に足を踏み入れたり、身を引いたりすることが繰り返され、“撤収(哲秀と同じ発音)政治”と嘲弄された。2度の大統領選挙と五つの政党を経ながら、彼の政治遍歴は汚辱にまみれた。先週、国民の党代表として開催した最初の外部行事でもへまをしでかしてしまった。国立ソウル顕忠院を訪れた彼は、芳名録にコロナ19(新型コロナウイルスの通称)を「コロナ20」と間違って表記し、大恥をかいたのだ。それほど政治は常に合わない衣服だった。

 彼が今回しばし本業に戻ると、拍手喝采が沸き起こった。黙々とボランティア活動を行う姿にネティズンたちは「安哲秀の政治人生の中で一番よくやったこと」だという、好意的なコメントを書き込んだ。マキャベリよりもヒポクラテスのガウンが彼にぴったり合っているというわけだ。

 今回の安代表の行動を見て、批判する人たちもいるようだ。インターネットに「安哲秀は免許停止状態だというのに、不法医療ではないのか」「汗でなく水を撒く選挙ショー」などの誹謗が少なくなかった。新型コロナウイルスよりもっと悪い政治ウイルスだ。今、この瞬間にも政治ウイルスは韓国社会の陰湿な日陰で変種と増殖を繰り返している。新型コロナウイルスはいつか消えるだろう。しかし、ウイルス専門家の安哲秀でもどうすることもできない政治ウイルスは誰が退治しなければならないのだろうか。

 (3月4日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。