トロット熱風
トロット(韓国演歌)は20世紀初め、英米圏の社交ダンスの演奏リズムであるフォックストロット(FOXTROT)に由来する言葉だ。
キツネが歩くように4分の4拍子に合わせて軽やかに踊るリズムが日本を経てわが国に入ってきてトロットになったというのが定説だ。「ズン~チャ、ズン~チャ」という早い2拍子が繰り返されて俗称“ポンチャ”と呼ばれたりもする。日本歌謡の演歌の影響を受けているが、朝鮮民謡の情緒を盛り込み、特有の唱法が加わって、韓国の伝統歌謡として定着した。
「荒城の古跡、夜になり月色だけが静かに/廃墟に潜む懐抱を語ってあげよう/ああ哀れだ、この私の体は何かを探そうと/はかない夢の街をさまよっている」。日本統治期(日帝強占期)の1929年秋、(韓国初の常設映画館)団成社で幕間に歌う歌手だった18歳の李愛利水が初めて『荒城の古跡』を歌った。わが国の歌謡史初のトロットだ。国を失った悲しみが込みあげ客席のあちこちでむせび泣き、結局涙の海となって李愛利水は最後まで歌えなかった。朴正熙大統領も愛唱した。
トロット熱風が吹き荒れている。先週放送されたTV朝鮮『ミスター・トロット』が視聴率30・4%を記録した。これまで『無限挑戦』や『1泊2日』など代表的な芸能番組だけが記録した数値だ。
昨年、『スカイキャッスル』(JTBC)が記録した総編全番組の中の最高視聴率(23・8%)も超えた。特に13歳の歌手、チョン・ドンウォン君が『ポリッコゲ』(麦の峠=春の端境期のこと)を歌った時は、原曲の歌手はもちろん視聴者も涙を流した。参加者たちはほとんどアイドル級の人気を得ている。パンソリ専攻の人や声楽家たちが次から次へとトロットに乗り換えている。
目を引くのは中年や壮年の専有物だったトロットを今は老若男女が一緒に楽しんでいるという点だ。“ミス・トロット”が輩出したソン・ガインとホン・ジャ、MBNの“ボイスキング”チョン・スヨン、歌手ユ・サンスルに変身した国民MCのユ・ジェソクなどの活躍が相乗作用を起こした。最近1年間にヒットチャートのトップ200に入ったトロットが5・8倍にも増えたほど。
トロットには時代相と当代人の生活が溶け込んでいる。新型コロナウイルスで国民が苦しむ中、それでもトロットが慰労してくれているのは幸いだ。
(2月24日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。