ロシアの違反で新たな火種、米はオープンスカイ条約離脱か

ビル・ガーツ

ビル・ガーツ氏

 トランプ米政権は1992年に締結した「オープンスカイ条約」にロシアが違反しているとして離脱する計画を進めている。ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約が失効したばかり。両国間の緊張が高まるのは必至だ。

 米政府高官は記者(ビル・ガーツ)に、トランプ大統領は離脱をすでに決めているが、公式には発表されていないと説明、「米国は条約を履行し、完全に順守している。ロシアは領空の飛行を拒否するなど、違反を続けている」とロシアを非難した。

 条約は互いの領空での偵察飛行を認めるもので、34カ国が加盟している。軍備管理推進派は、透明性を確保し、情勢を安定化させる上で重要な役割を果たしているとして条約を支持。反対派は、米国と同盟国がロシアによる重要施設上空の飛行を認めているにもかかわらず、ロシアは拒否していると主張、条約の効果に疑問を呈している。

 トランプ政権は8月、ロシアの違反を理由にINF全廃条約を破棄しており、オープンスカイ条約から離脱すれば、トランプ政権下で2度目の軍備管理条約離脱となる。

 共和党のコットン上院議員は10月30日、米国の離脱を求める決議案を提出している。

 ロシアの条約違反は8月、国務省の軍備管理条約の順守に関する年次報告で指摘されている。

 報告は、ロシアはバルト海沿岸の飛び地カリーニングラード上空に半径500㌔の飛行制限空域を設け、条約に違反したと指摘している。カリーニングラードには短距離弾道ミサイル「イスカンデル」が配備され、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の脅威となっている。米国は上空の偵察飛行を求めているが、2017年以降、ロシアは拒否している。

 さらにロシアは10年以降、ジョージアの南オセチア、アブハジアとの国境沿いの幅10㌔の地域周辺の偵察飛行も拒否している。15年から交渉が行われているが、条約違反は解消されていないという。

 米国はロシアの順守を促すために対抗措置を取り、ハワイ上空の偵察飛行を制限した。また、条約に基づく偵察飛行に対する連邦航空局(FAA)規則摘要の一部免除を停止、給油のために立ち寄った飛行場での宿泊提供の便宜も停止した。

 ところが、ロシアは順守の姿勢を見せず、米国による偵察飛行をさらに制限すると発表、反発を強めている。

 民主党のエンゲル下院外交委員長は10月7日、オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)への書簡で、離脱は「無謀」と主張。ロシアとの関係は悪化しており、互いの誤解を避けるためには交流が必要だと、条約維持を訴えた。