豊洲市場開場、世界視野にブランド確立を
新しい「日本の台所」となる東京都の豊洲市場が開場した。築地閉場時点で524だった水産卸業者は、移転を機に廃業などで492になるが、世界最大級の水産卸売市場であることは変わらない。築地ブランドを継承しつつ、新たな豊洲ブランドを作り上げてほしい。
閉鎖型で衛生管理が向上
初日は一時的な交通渋滞も起きたが、大きな混乱もなく、マグロの初競りなどが行われた。小池百合子知事は「皆さんと連携しながら、豊洲ブランドを一日一日積み重ねていきたい」と抱負を語った。
約5691億円をかけて建設された豊洲市場は、築地の1・7倍となる40・7㌶の敷地面積を持つ。建物は外気を遮断した閉鎖型にし、適温管理が容易となり鮮度をアップできる。衛生管理も向上する。卸売場と荷捌(さば)きエリアが直結し、大手スーパーなどの求めに応じて商品の包装や下処理ができる「加工パッケージ棟」も設けた。業者らが新市場に慣れるには時間がかかるだろうが、早くその良さが生かされることを期待したい。
築地から豊洲への移転は2001年に正式決定。17年の歳月を経て実現した。土壌から環境基準値を上回る有害物質が検出されたため、汚染対策を行って16年11月に開場する予定だった。ところが小池知事は就任直後、安全性に問題があるとしてさらに2年近く延期した。
追加工事や補償金などに2年間で160億円以上が投じられ、豊洲のイメージダウンももたらした。損失を取り戻せるか知事の手腕が問われよう。
都は30年度までに水産物の取扱量を昨年の築地の1・5倍、青果は1・3倍にすることを目指している。しかし、中央卸売市場をめぐる環境は厳しい。水産物の国内総流通量のうち、中央卸売市場を経由する割合は、1989年度の64・6%から2015年には39・5%に減少。中央卸売市場の水産物取扱量の2割近くを占めている築地でも、ピークの1987年の約80万㌧から2017年には約39万㌧に半減している。
背景には、産地から大手スーパーなどへの直販やインターネット販売など「市場外流通」の拡大がある。さらに、消費者の魚離れの傾向も課題だ。
一方、世界各地で日本食ブームが続いている。政府は農水産物の輸出拡大を目指し、19年には水産物の輸出額を3500億円とする目標を掲げている。その際、食品衛生管理の国際基準「HACCP」の認証取得が課題となる。豊洲市場での衛生管理向上を海外への販路拡大の踏み台としたい。
築地は競りを間近で見学できるため、外国人観光客の人気を集めた。豊洲では衛生面に配慮して「見学デッキ」からガラス越しに眺めることになるが、外国語の解説を読める設備も備える。築地に代わる新名所となることが期待される。
食文化の発信拠点に
豊洲の集客施設の開業は、小池知事が「食のテーマパーク」構想を掲げたため23年にずれ込む。豊洲を日本の食文化の発信拠点とする意味で、この構想には賛成だ。市場の経営にも大きく貢献するものにしてほしい。