民泊法案、健全な普及につなげたい


 住宅やマンションの空き部屋を旅行者らに有料で貸し出す「民泊」について、政府は年間営業日数の上限を180日と定める住宅宿泊事業法案を今国会に提出する方針だ。

 なし崩し的に広がっている民泊のルールの明確化は、利用する外国人観光客と近隣住民とのトラブル防止に欠かせない。

 全面解禁へルール明確化

 2016年の訪日客数は過去最高の2403万9000人に達した。政府は20年に訪日客を4000万人に引き上げる目標を掲げているが、達成には地方への誘客とともに、大都市の宿泊施設不足を解消するため、民泊の全面解禁に向けたルール整備が課題となっている。

 訪日客の中には、普通の日本の生活を体験したい人も多い。こうした多様な宿泊ニーズに応えるためにも民泊は重要だ。政府は国家戦略特区を活用し、東京都大田区や大阪府で既に解禁している。特区以外でも、旅館業法に基づく「簡易宿所」の許可を得れば営業できるようにしている。

 だが簡易宿所は原則として、都市計画法で指定されている住居専用地域(住宅地)での営業が認められていない。このため、無許可の民泊が都市部を中心に広がっているのが実態だ。厚生労働省が全国の約1万5000物件を調査したところ、少なくとも3割に当たる約4600件が無許可営業だった。

 民泊は野放しにすると、テロのアジトや売春目的に使われたり、利用者によるごみ出しや騒音などで近隣住民とのトラブルが生じたりする恐れがある。東京都新宿区では、民泊をめぐる住民からの苦情が16年4~11月で166件に上った。適正なルールに基づく管理が求められるのは当然だ。

 住宅宿泊事業法案では、特区以外の地域や住宅地での民泊を解禁。一方、物件の所有者に①都道府県への届け出②衛生管理③宿泊者名簿の作成④民泊物件であることの表示――などを義務付ける。違反者には、都道府県などが立ち入り検査して改善や営業停止を命令でき、従わない場合は罰金を科す。

 営業日数の上限は年180日だが、住環境の悪化を懸念して訪日客の受け入れに慎重な地域もあるため、自治体が条例で個別に引き下げることも認める。トラブル防止のため、観光庁は苦情を受け付ける専用窓口を設ける方針だ。こうした取り組みを健全な民泊の普及につなげる必要がある。

 訪日客をめぐっては一時期、中国人を中心とする「爆買い」が注目を集めた。しかし最近は失速し、体験型の「コト消費」が人気を集めている。民泊は大都市だけでなく、地方には農村生活を体験できる「農家民泊」もある。山菜摘みや川遊び、まき割りなど季節ごとの体験を楽しむことができ、素朴で味わい深い生活が魅力だ。

 リピーターを増やそう

 初めて日本を訪れた外国人が有名な観光地を訪れるのは自然な流れだ。4000万人達成には、新しい魅力を求めて来日するリピーターをいかに増やすかが重要だ。リピーターが多くなれば、民泊の定着にもつながるのではないか。