高額ベア回答、経済の好循環回復に繋げたい
高額のベースアップ(ベア)が相次いでいる。2015年春闘で労働組合の要求に一斉回答した自動車や電機などの大手企業。円安を追い風にした好調な企業業績を背景に、政府の賃上げ要請にも応えた形である。
日本経済は昨年4月の消費税増税以降、2四半期連続のマイナス成長。昨年10~12月期も力強さが戻らない。経済の好循環の復活には何より個人消費の回復が欠かせない。デフレ脱却へ今回の賃上げは確かにプラスだが、その流れが中小企業にどこまで広がるか。楽観は禁物だ。
中小企業の動向が焦点
日本のトップ企業として自動車産業を牽引(けんいん)するトヨタ自動車は、ベアに相当する賃金改善分が現行の要求方式になった02年以降では最も多い月額4000円、一時金は要求通りの6・8カ月を回答した。
日産はベア5000円とトヨタを上回り、大手製造業でも最高水準である。電機業界でも、日立製作所やパナソニック、東芝など大手はベア3000円の統一回答を行い、現行方式では過去最高になった。
今後は4月以降に交渉が本格化する中小企業の動向が焦点になる。大手企業の動きがどこまで波及するか。
また、前年を上回るベア回答をしている大手企業は、円安のメリットを受けやすい業種が中心。一部の非製造業では前年実績に届かないところも出るなど対応が分かれる。
人材の確保を意識した外食産業ではベアに前向きな企業が目立つ。だが、消費の低迷や円安によるコスト増で経営環境が厳しい小売業では賃上げ姿勢に濃淡がある。
昨年の春闘では2%台半ばの賃上げを実現したが、消費税率の引き上げや円安に伴う物価の上昇に追いつかず、実質賃金は減少が続く。今年1月まで19カ月連続でマイナスである。
このため、GDP(国内総生産)の6割弱を占める個人消費は、消費税増税直後の14年4~6月期に前期比(実質)5・0%減と大幅に落ち込んだ後、7~9月期は0・3%増、10~12月期も0・5%増と伸び悩む。
増税に伴う駆け込み需要の反動減の影響は、さすがに時間の経過とともに薄らぎつつあるものの、消費支出額は増税前の水準には戻らず、力強さも見られないままでいる。
もっとも、実質賃金に関しては、先行き明るい材料もある。4月からは消費税引き上げの影響がなくなる。今回の賃上げが中小企業までどの程度波及するかにもよるが、相応の賃上げが実現すれば、原油安に伴う燃料費の減少などもあって改善も見込める。
日銀は柔軟な政策対応を
中小企業の動向は注意深く見守る必要があるが、それと同様、重要になるのが日銀の金融政策である。
量的・質的金融緩和を始めて2年。過度の円高の是正に成功し、株高を誘導して景況の改善に貢献してきたが、目標とする2年で2%程度の物価上昇には届いていない。しかし無理に物価目標を達成しようとすれば、実質賃金の改善にマイナスとなって逆効果である。柔軟な政策対応を望みたい。
(3月24日付社説)