経済安保 官邸主導で中国に対抗を


 政府の外交・安全保障政策の司令塔を担う国家安全保障局(NSS)に、経済安保を扱う「経済班」が発足した。

 米中貿易摩擦など、経済政策が外交・安保と密接に関わる事態が増えたことを受けてのものである。

 国家安保局に「経済班」

 経済班は、多種多様かつ高度化、巧妙化しているサイバー攻撃への対策や、知的財産、先端技術の国外への流出防止、海洋権益の確保などを安保の観点から取り扱い、各省庁との調整なども担う。日本はこれまで、どの部署が経済安保戦略を担っているのかよく分からなかったが、経済班の設置で明確になったと言える。

 NSSは、安倍晋三首相が議長を務める国家安全保障会議(NSC)の事務局として2014年に発足。防衛、外務、警察など関係省庁の官僚で構成する。これまでは「総括・調整班」「政策第1班(米国・欧州など)」「政策第2班(北東アジア・ロシア)」「政策第3班(中東・アフリカなど)」「戦略企画班」「情報班」の6班体制だった。新たに設けられた経済班は経済産業省出身の審議官と総務、外務、財務、警察の各省庁出身の参事官ら約20人体制で始動する。

 経済班発足の背景にあるのは、巨額の資金と最先端技術を武器に軍事・経済の両面で世界の覇権をうかがう中国の台頭だ。米中間では貿易摩擦や次世代通信規格「5G」の整備をめぐる覇権争いが激化している。貿易摩擦は、米国が中国による知的財産権侵害を理由に制裁関税措置を発動したことから始まった。5Gは国家情報網や軍事力を大きく左右する。

 米政府は19年5月、安保上の脅威として中国の通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)と米企業の取引を原則禁止した。日本も「安保上の懸念」を理由に対韓輸出管理を厳格化するなど、国際社会では近年、経済的手段を通じて国家の安全を追求する動きが強まっている。

 経済問題と外交・安保との関わりが強まる中、政府は従来の縦割りでは対処が難しいと判断。昨年10月に経済班開設に向けた準備室をつくり、体制を整えてきた。首相は、経済班を軸に官邸主導の態勢を強化し、米国と足並みをそろえて中国に対抗する必要がある。

 さらに経済班は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本でも必要性を増した感染症防止のための入国管理強化も担うことになった。新型ウイルスは既に世界経済の脅威となっており、NSSは「安保上の緊急事態」(内閣官房担当者)と位置付け、情報収集の徹底や関係各省との総合調整を図り、水際対策や人の移動制限、物流などへの対応を行う。海外で感染症が広がった際の迅速な対処が求められる。

 日米連携の一層の加速を

 首相は国会答弁で、経済班の役割について「世界的な感染症の影響拡大による世界経済やパワーバランスへの影響など重要課題の対応に当たらせたい」と表明した。

 経済班が今後、経済安保分野で米国のカウンターパートの役割を担い、日米連携を一層加速することを期待したい。