米中貿易協議 米国は構造改革を促し続けよ
トランプ米大統領と中国の劉鶴副首相は米ホワイトハウスで貿易協議での「第1段階」の合意文書に正式署名した。
世界1位と2位の経済大国間の貿易戦争は制裁と報復のエスカレーションの状態からしばしの小休止に転じた。だが、中国の構造問題は未解決のままだ。
追加関税の一部引き下げ
第1段階では、11月の大統領選を意識したトランプ政権と景気減速を懸念する中国の思惑が一致。米中が貿易拡大や市場開放などで合意文書署名にまでこぎ着けたのは、2018年7月に関税合戦が勃発して以降初めてのことだ。署名から原則30日後に発効する。
第1段階の合意は、農産品、金融サービス、為替など対立の小さい分野に限定された。中国は米国から物品とサービスの輸入を、今後2年間で2000億㌦(約22兆円)増やす。
これが実施されれば米国の供給量は1・5倍になる。トランプ氏は「将来の公平で互恵的な貿易に向けた重要な一歩だ」と述べ、対中輸出拡大の成果を誇った。
これに対し、劉副首相は米産品の巨額輸入について「市場の状況に基づいて」行うとくぎを刺した。景気減速に直面する中国が数値目標を達成できるのか疑問視する見方も出ている。今回の文書には、合意内容を履行しているか監視する制度が盛り込まれた。「実行できていなければ適切な対抗措置を取る」としている。
中国が全面撤廃を求めていた制裁関税に関しては、第1弾から第3弾までの2500億㌦相当分に対する25%の税率が据え置かれ、昨年9月に発動した第4弾の1200億㌦相当分への15%が7・5%に引き下げられただけだった。米政府高官は「中国が合意内容を守らなければ、制裁関税を再発動する」と明言している。
一方、中国政府が是正を拒む産業補助金や国有企業改革などの構造問題は「第2段階」の交渉に先送りした。制裁関税撤廃の要求取り下げと引き換えに中国の国家資本主義に関わる懸案を棚上げさせた形だ。しかし、米国は中国の国有企業への補助金支給を通じた産業育成策を問題視しており、見直しを求めている。
中国政府はハイテク産業育成戦略「中国製造2025」に巨額の補助金をつぎ込んでいる。この戦略の中核を担うのが、次世代通信規格「5G」で世界の先頭を走る勢いの通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)だ。中国が軍事力をも左右する5Gの覇権を握れば、米国やその同盟国の日本にとっては大きな脅威となる。
トランプ氏は第2段階の協議を速やかに始めると表明するとともに「合意すれば関税の取り消しに応じる」と中国を牽制(けんせい)した。もっとも、大統領選までに再び対立が強まる事態は避けたい意向とみられる。
先送りは中国の思うつぼ
だが構造改革の先送り感が定着し、第2段階の本格的協議が大統領選後にでもずれ込めば、中国の思うつぼである。
トランプ氏は強い姿勢を貫いて中国に構造改革を促し続ける必要がある。