ボルトン氏解任で米外交に変化も

国際社会に懸念広がる

 対外強硬派とされたボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が解任された。理由は、対北朝鮮や対タリバン、対イラン、対ベネズエラなどをめぐるトランプ米大統領との確執とされるものの、ボルトン氏が政権中枢から去ることで、国際社会への多大な影響力を持つ超大国の外交政策が変化する可能性もあり、懸念が広がっている。(カイロ・鈴木眞吉)

サウジ原油施設攻撃、イラン関与か

 ボルトン氏は、北朝鮮やイランなどに対し、体制転換を求め、必要ならば武力行使も辞さない強硬派だった。それに対し、トランプ米大統領は、大統領選挙に向けた実績欲しさに、これらの相手との対話を試み、外交によって解決の道を模索する融和政策を推し進めようとしていたとされ、両者の決定的な対立につながったようだ。

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英領ジブラルタル沖に停泊するイランの石油タンカー(8月15日、AFP 時事)

 ボルトン氏は、対イランでは、イスラム教シーア派法学者体制の壊滅を試み、対イラン戦争を仕掛けようとその環境整備を主導したとされる。トランプ大統領が武力行使の10分前に停止を決断し、両者の意見の違いが表面化した。

 ただここで、国際社会が懸念していることは、米国が、自由と民主主義を守るために譲れない一線に直面した時に、「戦争を決断できない男」「目前の実績を求める男」が足元を見透かされ、妥協を迫られ、融和政策に傾き、政策が後退することだ。オバマ前大統領がそうだった。

 イランは決して生やさしい国ではない。「イスラム教シーア派革命を世界中に輸出」することを聖戦視し、そのために必要な軍事・財政支援を、国境を越えて惜しまない、イスラム教信仰をバックにした宗教独裁国家である。同国で最大の軍事力を有する革命防衛隊は、その名が示す通り、世界中にシーア派革命を輸出し、その成果を守る世界規模の活動に徹する軍隊である。

 イランは世界各地のテロ組織を支援し、「テロ支援国家」に指定されている。

 テロ組織の中でとりわけ大きな影響力を保持しているのは、レバノンのイスラム教シーア派過激派民兵組織「ヒズボラ(神の党)」と、イエメンのイスラム教シーア派フーシ派だ。ヒズボラは、レバノン国軍を上回る軍事力を保持して、政界にも進出、実質レバノンを力で牛耳り、同国の民主主義を力で破壊する勢力として君臨している。「神の党(ヒズボラ)」という名が示す通り、自分たちは神の使いそのものだという自覚にあふれた、イスラム教信仰に根差した強い精神力を保持している。

 イエメンのフーシ派は、サウジアラビアの支援を受けるイエメン暫定政府軍と互角に戦い、最近では、サウジ本土へのドローン攻撃を開始している。今月14日未明に、サウジ東部の石油施設が攻撃を受け、大火災が発生、サウジ全体の産油量の約半分、世界供給分の5%に当たる570万バレルの生産が止まった。犯行声明はフーシ派が出したが、真の攻撃主体はイランと疑われている。

 イランは、戦争を決断できず、対話で妥協を引き出したいトランプ氏の足元を見透かし、英領ジブラルタルの自治政府が拿捕(だほ)し、最近解放したばかりのタンカーが積載していた原油を、シリアに引き渡した。ジブラルタル自治政府と米国はまんまとだまされた形だ。

 米国は、諸勢力の共存を可能とする自由・民主主義世界の旗手として、たとえ戦争に突入せざるを得なかったとしてもその価値観を守るために毅然(きぜん)とした姿勢を貫くべきだろう。当面は最低限、イランと北朝鮮の核保有を完全に断念させ、自由世界への脅威を取り除くべきだ。