野党の筋違いの「老後2000万円」批判の尻馬に乗り政府を攻撃する朝日

◆非現実的想定で試算

 「95歳まで生きるには約2000万円必要」とする金融庁の試算をめぐってひと悶着(もんちゃく)があった。野党は「『100年安心』はうそだったのか。国民は、自分で2000万円ためろとはどういうことかと憤っている」(蓮舫・立憲民主党副代表)と息巻き、これに対して麻生太郎金融担当相は「政府の政策スタンスと異なっている」として受け取りを拒否し知らぬ顔の半兵衛だ。

 この論議はそもそも土台が怪しい。2000万円「赤字」の想定が不可解だ。総務省の家計調査に基づき、平均的な無職の高齢者(夫65歳、妻60歳以上)の収入は年金などで約21万円、支出は約26・3万円で、月約5万円不足。その「赤字」を貯蓄で賄うとすれば、95歳まで30年間生きるには2000万円必要。そんな試算だった。

 支出の中身は、食費6・4万円、住居費1・3万円、光熱水道費1・9万円、交通・通信費2・7万円、教養娯楽費2・5万円、その他の消費支出(諸雑費・交際費など)5・4万円など。住居費が低いが、他はなかなかの使いっぷりだ。夫婦は60代半ば以下で、高齢者世帯というには若過ぎる。それで現役並みの暮らしだが、それを95歳まで続ける想定はどう見ても非現実的だ。

 人生いろいろ、人さまざま。庶民は収入に応じた暮らしを心掛け、食費は1日1000円に抑え、外食は月2回とか、節約に余念がない。収入21万円なら御の字という世帯も多かろう。年金の「100年安心」は破綻させないといった意味合いで、年金だけで老後が安心だと考える人はさほど多くはいないだろう。

 現に高齢者は少なからず貯蓄している。これも総務省の家計調査だが、60歳以上の2人以上の世帯の平均貯蓄額は約2300万円。これは平均値(額の平均)で、中央値(下から数えての中央)でも約1500万円。500万円以下の世帯は2割あるものの、高齢者イコール経済的弱者というわけではない。

◆初報には「憤り」皆無

 それでも野党は2000万円貯蓄に国民が憤っているというのだろうか。少なくとも新聞は当初、憤りのイの字も書かなかった。「野党の味方」の朝日も憤っていない。初報の朝日4日付はこう書く。

 「人生100年時代に向け、老後に必要な蓄え『資産寿命』の延ばし方の指針を、金融庁が3日まとめた。公的年金を老後の収入の柱とする一方で、若いころからの資産形成など『自助』を勧める内容。議論の過程では、年金という『公助』の限界を十分説明しない政府の姿勢に疑問も出た」

 記事はファイナンシャルプランナーらによる「資産寿命」の延ばし方に力点を置く。曰く、まず必要なのは足元の支出の見直しで、現役世代は保険料や携帯電話などの通信費、住宅ローンなど毎月の固定費が高い。保険や住宅ローンの見直しは手間だが、一度やれば効果が続く。退職前後は、老後の生活費の見通しを立て、退職金や年金でどう賄うかの計画を見直す。高齢期は、老後の生活に車が不可欠か、などの見極めも大切―。

 いずれもご説ごもっとも、「5万円赤字」の世帯に聞かせたい指南である。こんな具合に朝日は2000万円貯蓄をまったく問題にしていなかった。報告を受けて辻元清美・立憲民主党国会対策委員長が「年金だけで暮らせないとは、政治の責任放棄」と批判したが、この発言は6日付3面の短報で扱っただけだ。

◆一転トップ記事扱い

 ところが、野党が国会で問題視すると、一転して朝日7日付は「『老後2000万円必要』野党が非難 参院選争点化の可能性も」と政府追及への“期待”を込め、12日付は1面トップで「『老後2000万円』報告、受理拒否 麻生金融相、審議会に異例対応」などと大きく報じた。

 本来、言論は野党の筋違いな批判を諫(いさ)めるべきところだろう。それを逆に尻馬に乗って政府攻撃に利用しようとしている。それほど朝日は安倍政権批判の材料に事欠いているのだろうか。

(増 記代司)