首相イラン訪問、緊張緩和へ日本の力生かせ
イラン情勢をめぐって緊張が高まっている。イラン核合意に関する米国とイランの対立が根底にあり、イラン、米国双方と関係が良好な日本の強みを生かし、日本の外交をアピールする好機だ。
米大統領の意向伝える
安倍晋三首相はイランを訪問し、ロウハニ大統領、最高指導者ハメネイ師と会談した。首相は、トランプ米大統領の「エスカレートは望んでいない」との意向を伝えたようだが、ハメネイ師はツイッターでトランプ氏について「意見交換に値する人物とは考えていない」と米国との交渉を明確に拒否した。
ロウハニ師は「緊張の原因は米国の経済戦争にある」と、米国が科している経済制裁が緊張につながるとの見方を示した。
イラン訪問は、トランプ氏からの要請を受けたものだ。両国間の直接的な「橋渡し」には至らなかったものの、日米の意思を直接、イランの指導者に伝えられた意義は大きい。首相はロウハニ師に、核合意への支持を表明するとともに、合意の順守を求めた。
ペルシャ湾岸からの原油に大きく依存する日本としては、この地域の安定は非常に重要だ。ハメネイ師の「平和への信念」(首相)を確認できたことは、地域の安定化への意思を示したものとして評価したい。
米国は昨年5月にイラン核合意から離脱し、経済制裁を復活させた。合意がイランの核開発の恒久的な停止を保証するものでないこと、イランがミサイル開発を進め、シリア、イエメンなどで影響力を拡大していることなどがその理由だ。これに対し、合意に参画した英仏独とロシア、中国は合意の継続を主張し、米国と対立している。
欧州は、イランとの貿易を継続しようと新たな枠組みの構築を進めているが、まだ成果は出ていない。米国からの制裁を前に欧州企業もイランとの取引には消極的だ。
今年5月には、米国の原油完全禁輸が発効したことが新たな緊張につながった。イランが米軍への攻撃を準備していたという情報をもとに米国は、空母、戦略爆撃機を派遣するなど、軍事的緊張は一気に高まった。
国際社会の懸念は、緊迫した情勢の中で、偶発的な事情から本格的な衝突へとエスカレートすることだ。5月には、アラブ首長国連邦(UAE)沖で、タンカー4隻が攻撃を受けた。米国、サウジアラビアはイランの関与を指摘している。
首相のイラン滞在中にもタンカー2隻が攻撃を受けた。1隻は日本の海運会社が運用しているタンカーだ。死傷者などは出ていないが、緊張緩和への動きに水を差すものだ。
米国はイランが関与しているとの見解を示したが、緊張をあおり、首相訪問による安定への動きを妨害しようとするものであることは確かだ。エネルギーの安定供給に支障を来すことのないよう情勢を注視すべきだ。
直接対話の意義大きい
イラン指導者に直接、日本の首相としての考えを伝え、平和への意思を確認できたことの意義は大きい。今後も引き続き、緊張緩和へイラン、米国に働きかけていくことが重要だ。