比南部、イスラム暫定政府発足
フィリピン南部のイスラム教徒を中心とする、バンサモロ・イスラム自治政府の創設が具体的に動き出した。2度の住民投票を経て、イスラム教徒ミンダナオ自治区を廃止し、バンサモロ・イスラム自治政府を創設することが決定。実現に向け暫定統治機構が発足した。しかし、モロ・イスラム解放戦線(MILF)を中心とする組織編成に懸念も出始めている。
(マニラ・福島純一)
自治政府創設を目指す
イスラム勢力間の対立に懸念も
2月22日に暫定統治機構の首相代行としてMILFのムラド議長が就任した。対立勢力であるモロ民族解放戦線(MNLF)の幹部もスルー諸島の代表として、2人いる副首相の一人に名を連ねているが、ほとんどのポジションはMILFで占められている構図だ。
ミスアリ議長を中心に、かつてイスラム教徒ミンダナオ自治区を統括していたMNLFは、バンサモロ・イスラム自治政府には反対の姿勢を示し、ドゥテルテ大統領が就任当初から主張していた連邦制への移行を強く求めている。しかし、憲法を改正する必要がある可能性もあり議論は進んでいない。
ドゥテルテ氏は就任直後から、イスラム教徒ミンダナオ自治区での汚職容疑などで逮捕状が出ていたミスアリ氏の司法手続きを一時棚上げして会談を実現させるなど、和平プロセスのキーパーソンとしてミスアリ氏を扱い、親密な関係を構築してきた。今のところMNLFは静観の構えを示しているが、バンサモロ・イスラム自治政府の創設とともにMILFの影響力が拡大するのをこのまま黙って見過ごすかは不透明だ。
政府高官は、今年中に1万人以上のMILFメンバーの武装解除を行い、その一部は国家警察や国軍に編入されるとの見通しを明らかにした。選挙が実施される2022年までに、すべての武装解除を完了させるとしている。
しかし、南部ではイスラム教徒同士の土地などをめぐる「リド」と呼ばれる部族争いがたびたび起きるなど、武力で問題を解決しようとする習慣も一部で根強く残っている。そのため、すべてのMILFメンバーが武装解除に応じるのか懸念も残るところだ。
また、フィリピン南部の豊富な地下資源をめぐる中央政府と自治政府の利益配分の比率などで、不満や対立が高まる可能性もある。過去、歴代政府は和平交渉を粘り強く繰り返してきたが、イスラム勢力は不満分子による内部分裂を繰り返し、結果的に複数のイスラム過激派グループが組織されるに至っている。皮肉にもMILFは、MNLFが進めた政府との和平路線に反対する分派が結成したグループという過去がある。
ドゥテルテ大統領は、ほかのイスラム過激派を含む包括的な和平を目指し話し合いを模索してきた。が、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓うアブサヤフやマウテグループなどは聞く耳を持たず、依然としてテロ行為を繰り返しており、結局MILFを中心とする暫定政府の樹立となった経緯がある。
本格的な地域の安定には、今後もMNLFをはじめとする他のイスラム勢力の取り込み、または掃討が必要不可欠だ。ドゥテルテ氏が大統領としての任期満了を迎える22年までに、さらなる前進が求められる。
南部における和平プロセスには、日本政府もインフラ整備などの側面で積極的に支援を続けている。2月9日にフィリピンを訪問した河野太郎外相は、ダバオ市でドゥテルテ氏を表敬訪問し、今後も和平プロセスの進展に呼応して支援を強化していく姿勢を伝えた。