社会主義的政策に傾く米民主党
「グリーン・ニューディール」支持広がる
「民主社会主義者」を自称する米民主党のアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員らが今月公表した温暖化対策の決議案「グリーン・ニューディール」(GND)が、注目を集めている。「実現性が乏しい」などと批判を浴びる一方、野党・民主党から2020年大統領選への出馬を表明した候補者らは相次ぎこれを支持。保守派や経済界は、国家の介入を強める社会主義的政策が一定の支持を集めていることに、警戒感を高めている。(ワシントン・山崎洋介)
保守派は左傾化に警戒感
1回生議員ながら「新星」として注目を集めるオカシオコルテス氏が提案したGNDの柱は、10年以内に風力、太陽光などの再生可能エネルギーだけで電力需要を100%を満たすとする。化石燃料を禁止するだけでなく、温室効果ガスの排出が少ない原発も10年後の廃止を目指すという左派のイデオロギー色の強い急進的な計画だ。
GNDの特徴は、単なる温暖化対策ではなく、雇用創出や格差是正を含め社会の大規模な変革を目指していることにある。そこでは「エネルギー効率向上のために国内のすべての既存の建物を改築」「飛行機による移動が不要になる規模まで高速鉄道を拡大」「すべての米国人に高収入の仕事を保障」などと謳(うた)う。財源が問題視され、実現性が乏しいと批判を受けるが、民主党支持層には浸透している。
民主党では、バーニー・サンダース上院議員(77)をはじめ、カマラ・ハリス上院議員(54)、コリー・ブッカー上院議員(49)ら左派候補が続々と次期大統領選への出馬を表明している。いずれも、高齢者向け医療保険を全国民に拡大する「メディケア・フォー・オール」や富裕者への大幅増税といった政策と共に、GNDを掲げている。
ギャラップが昨年行った調査では、民主党員が社会主義に「肯定的」だと回答した人が57%と半数を上回った。これは同社の調査で初めてのことで、以前は米国で異端視された「社会主義」が受け入れられつつあることを示した。
だが、民主党が左傾化を強めれば、中道派の支持離れを招き、本選で不利になるとの見方も強い。同党のペロシ下院議長はGNDについて「グリーンな夢」と懐疑的な見方を表明するなど、路線の隔たりも浮き彫りになっている。
トランプ米大統領にとって、民主党の左傾化は格好の攻撃材料という側面もあるが、同時に左派への支持拡大も警戒する。18日に南部フロリダで行った演説でトランプ氏は、ベネズエラの反米左派のマドゥロ政権を非難した上で、「米国は、決して社会主義国にならない。生まれながらに、永遠に自由だ」と訴え、民主党左派を牽制(けんせい)。会場の聴衆を沸かせた。
一方、保守系シンクタンク、ヘリテージ財団特別客員研究員のスティーブン・ムーア氏は、11日付のワシントン・タイムズ紙で「(私も含めて)保守派は、GNDを嘲笑する傾向があったが、自由市場資本主義へのこうした正面からの攻撃は、急速に民主党の正統派になりつつある」と指摘。「保守派はこれらのばかげた考えを打ち負かし、信用を失墜させなければならない。米国は、社会主義への道を進みつつある」とその支持が広がることに危機感を示した。
また、全米商工会議所のトーマス・ドナヒュー会頭は18日に発表した声明で、GNDには大規模な社会保障給付など環境対策にそぐわない政策が含まれていると指摘し、「単なる進歩主義的政策ではなく、社会主義のためのトロイの木馬だ」として、警戒感を示した。