習氏自ら潰した「中国幻想」

米中新冷戦 第3部 識者インタビュー (21)

評論家 石平氏(下)

米国から「城下の盟」を強いられた習近平中国国家主席の政治的求心力が揺らぐ懸念はないのか。

石平氏

 

 米国はどちらでもいい。習氏が潰(つぶ)れたら、別の話の分かる指導者でもいい。習氏の首を取るためにやっているわけではない。ただ、既に習氏の急所を握っているから、トランプ大統領とすれば習氏の方が都合がいいかもしれない。

 柔軟性があって頭のいい指導者より、習氏の方がやりやすい。ある意味、習氏はトランプ氏の罠にはまってしまったのだ。

 中国を潰すには、幾つかのアプローチがある。明日にでもすべての中国製品に関税をかけて、一気に潰すのも方法だが、それでは米企業も困る。急速に追い詰めると、暴発するリスクもある。

 結局、対北朝鮮政策と同じように、幾つかのカードを手元に置きつつ、じわじわと締め上げていくことになる。カードを全部使ってしまえば、バーゲニングパワーは消えてしまう。

「米中新冷戦」の焦点は、技術覇権をめぐる戦いだ。

 華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)のスマートフォンは、売れてはいるが張り子の虎にすぎない。いずれも心臓部分のチップ(半導体)は大体、米国から輸入している。

 ZTEの不法輸出で米から輸出を止められた瞬間、ZTEは生産停止に追い込まれている。要は、核心的部品を自国で製造できていない。こうした技術開発は、1年や2年で追い付けるものではない。臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の心意気だけでできるものでもない。

 中国は先端技術を盗むか買うかしかなく、両方の道を止められたら自己開発など夢の夢だ。

トランプ氏は「台湾旅行法」に続き、年末には台湾への武器売却推進を謳(うた)った「アジア再保証推進法」に署名するなど、中国の脅威にさらされる台湾をバックアップする姿勢が鮮明だが、対中バーゲニングパワーとして使っているだけという懸念はないか。

 トランプ氏としては、少なくとも本気で台湾を守る姿勢を見せる必要がある。本気かどうかは、実は当の本人以外、誰も分からないが、実は核心はここにある。習氏も分からない。分からないこと自体が、抑止力になっているからだ。

 習氏が分かったら、対策や行動が取りやすくなる。本気でないと分かれば、中国は台湾を遠慮なく潰す。米国の本心が分からないから、簡単に動けない。それこそが巧妙な戦略だ。

 中国が国際戦略で米国と対峙(たいじ)するのは、100年早い。アングロサクソンは、歴史的に培われた国際戦略が血脈に受け継がれている。

 トランプ氏が米大統領選に勝った3年前の秋、私は「トランプでいいじゃないか」という記事を書いた。その思いは「トランプで良かったじゃないか」との確信に変わった。

 習氏はこの6年間、米国の中国に対する幻想を自分の手で跡形もなく潰した。

 個人独裁だと戦争をやりやすい。胡錦濤政権時代は集団的指導体制だった。だから個人的には戦争をしたくても、他の常務委員会メンバーの意見がばらばらだと、胡氏の一存で戦争できたわけではない。

 しかし、習氏は自分の一存で戦争ができる体制を構築した。習氏が明日、核戦争を決意したなら、国内で止められる人は誰もいない。

(聞き手=編集委員・池永達夫)