ブラジルで保守新政権発足へ

 南米ブラジルで1月1日、民政化後で最も保守的な政権が誕生する。軍政賛美などの過激な発言で知られるジャイル・ボルソナロ次期大統領(63)は組閣作業でも独自性を見せる。一部政策の方向性で懸念材料はあるが、世論調査等での国民の期待は高い。(サンパウロ・綾村 悟)

財政改革や汚職撲滅に期待
外交は「親米反共」が鮮明

 ブラジルの大手世論調査機関IBOPE社が今月13日に発表した世論調査結果によると、64%がボルソナロ次期政権に期待していることが分かった。新政権への否定的な意見は、14%にとどまる。

 国民が新政権に期待する政策の上位には、医療、雇用、汚職撲滅、治安対策、教育が並び、どれも構造的な改革を必要とするものばかりだ。

 ボルソナロ氏自身は、経済分野に詳しくないことを認めており、財政改革や金融方面では、財政規律派のパウロ・グエデス氏を登用、国内の金融・経済界からの支持を取り付けている。財政改革では、年金改革法案に早期に着手すると言明すると同時に、公務員の削減と大胆な省庁再編を行おうとしている。

 一方、汚職撲滅に向けては、印象的な組閣人事を行っている。次期法相人事では、石油公社ペトロブラスに絡んだ「ブラジル史最大の汚職事件」の捜査を主導したセルジオ・モロ元判事に入閣を要請、受諾された。

 モロ氏は、南部パラナ州の連邦地裁に所属しながら、汚職・資金洗浄捜査で中央政界からの圧力に屈しない姿を見せた。ペトロブラスの汚職事件では、労働党の重鎮でカリスマ政治家のルラ元大統領の起訴と収監を実現、国民からは英雄視されるほどだ。

 モロ氏は、ボルソナロ氏が提唱する銃規制の緩和や凶悪事件を起こした少年犯罪の厳罰化などにも一定の理解を示す。こうした大胆な人事も、10月の大統領選で起こった「ボルソナロ旋風」の人気が陰ることなく続く一因となっている。

 さらには、労働党政権が教育現場に導入しようとした同性愛教育プロジェクトの凍結も指示しており、保守派キリスト教会からの支持にもつながっている。

 外交面でも、親米反共という保守色の強い顔を覗(のぞ)かせる。ボルソナロ氏は、大統領選当時から「親トランプ」の姿勢を見せていたが、当選後もトランプ米大統領と電話会談を行うだけでなく、在イスラエル大使館のエルサレム移転にも言及した。

 その一方、労働党政権下で外交関係が強化されたキューバとの関係は崩れた。キューバからの「医師派遣プログラム」も打ち切られることが決定したばかりだ。

 ボルソナロ氏に関しては、大統領選当時より、「ブラジル版トランプ」「極右」とまで呼ばれる過激な言動が目立ち、女性蔑視とも取られる過去の発言はブラジル版「#MeToo(私も)」運動に発展、反ボルソナロの女性デモは全国的な広がりを見せた。

 ただ、泡沫(ほうまつ)政党の右派・社会自由党(PSL)から出馬したボルソナロ氏は、政党のしがらみにとらわれない発言を行い、その言葉は、経済低迷や凶悪犯罪の増加、医療や教育など基本的な社会サービスへのアクセスに苦しむ有権者に届いたのも事実だ。政界汚職においても、28年間の議員生活を続けたボルソナロ氏自身には汚職に関わった証拠もなく、「政界改革の旗手」というポジションを打ち出せた。

 新政権発足に向けて懸念材料もある。次期外相に指名されたアラウジョ氏は、地球温暖化対策に向けたパリ協定の履行を前向きに捉えておらず、ボルソナロ氏自身もブラジル国内の厳しい環境法が経済成長の足かせになっていると批判している。「世界の肺」と言われるアマゾン熱帯雨林の多くはブラジルにあり、熱帯雨林の減少が続けば、計り知れない経済的損失を世界にもたらすとの試算もある。

 また、今月17日には、「アマゾン熱帯雨林にある先住民保護区域での開発を行いたい」「開発で得た利益を先住民に還元し、彼らをブラジル社会と融合させることも可能だ」などと発言し、物議を醸した。