与党税制改正大綱に「増税対策優先」と批判の毎日、意義強調する読売
◆「官邸に追随」と毎日
自民、公明両党は2019年度の与党税改正大綱を決定した。19年度は10月に消費税率の10%への引き上げが予定されているため、増税に伴う景気悪化への対策などが大きな柱になっている。
各紙が論評を掲載した社説の見出しを、日付順に並べると次の通り。14日付産経「改革の先送りは許されぬ」、15日付日経「国民にわかりやすい税制を」、16日付読売「消費増税対策の規模は適切か」、朝日「宿題先送りに終止符を」、毎日「官邸への追随があらわだ」――。
見出しからも分かるように、露骨な批判を展開するのは毎日だ。「官邸への追随」とは、「借金漬けでも景気対策を優先する」姿勢のことらしい。
「大綱の策定を主導した自民党税制調査会はもともと財政規律を重視し、歴代首相からも一目置かれてきた。今回は官邸の大盤振る舞いに待ったをかけるべき局面だった」にもかかわらず、そうしなかったというわけである。
毎日は「景気への目配りは大切だ」と増税対策を認めないわけではないが、「だが、ここまで対策が手厚くなると、負担の先送りに歯止めをかける増税の目的はますます薄まってしまう」と懸念するのである。
◆抜本改革求める産経
読売は「無論、厳しい財政事情を踏まえ、過度な減税は避けるのは当然だ」と毎日と似たような指摘をしながらも、政府が近く決定する19年度予算案で計上する約2兆円の消費税対策と絡め、「予算案と合わせた規模は適切か、精査する必要がある」にとどめている。
読売の趣旨は、社説冒頭の「来年10月の消費増税を円滑に実施するため、減税を効果的に活用することが大切である」に尽きよう。
税制改正大綱は、消費増税に伴う景気悪化を防ぐため、自動車と住宅について、年約1700億円規模の減税による購入支援策を盛り込んだが、「消費税は増大する社会保障費を国民で広く薄く負担する安定財源である」と消費税の意義を認めるからこそ、その「着実な引き上げに向け、様々な購入支援策を講じ、消費を下支えしなければならない」というわけで、同感である。
消費増税対策の中核になる軽減税率の導入についても、同紙は「痛税感の緩和に効果を発揮しよう」と必要性を認め、また日本では初めての採用となることから、「店頭で混乱が生じないよう、政府はルールを明確化し、周知徹底に努めてもらいたい」とした。
さらに23年10月から義務付けられる、消費税額や税率を記載するインボイス(税額票)についても、消費者が払った税金が事業者の手元に残る「益税」の解消につながるとして、「徴税の公平性確保に資する意義は大きい」としたが、これまた同感である。
大綱発表当日の社説掲載となった産経は、「税制改正が目先の増税対策ばかりに目が向き、所得税や地方税などで抜本的な改革が見送られたのは残念だ」と指摘し、「今後は格差是正に向け、金融課税のあり方などに踏み込んだ骨太の改革論議を急がねばならない」とした。
確かに、格差是正の面から所得税や資産課税の見直しなどが課題として残された。自動車税は増税後に購入した車両を対象に、最大4500円減税し、購入時に支払う税負担も増税後1年に限って軽減するなど一段と複雑化した。日経は、税制は受益と負担がはっきり見えて、国民が納得することが望ましいが、今回の税制改正論議は「わかりにくい」とした。
◆追随でなく保証付け
朝日も「時代や社会の変化に合わせて制度を見直し、公平でわかりやすい税の姿を追求する。そんな基本原則に、政治は向き合ったのか」「置き去りにされた課題は、多い」と批判する。
これらの批判の多くは、確かにもっともな点が少なくないが、読売が指摘するように、今回の大綱は、来年の消費増税の円滑実施が主眼であることを忘れてはなるまい。
前回14年4月の増税は実施後、個人消費の落ち込みが予想以上に長引き、景気の足を引っ張った。そのために、過去2回実施を延期した安倍晋三首相である。
その意味では、今回の大綱は「官邸への追随」というより、消費増税の実施に有無を言わせぬ「保証付け」というべきであろう。
(床井明男)