貿易戦争、中国が逆襲も不発
アメリカ保守論壇 M・ティーセン
交渉で優位に立つトランプ氏
関税引き上げで圧力強化
思想家ラルフ・ウォルド・エマーソンは「王を討つときは、殺さねばならない」と言った。中国は、貿易戦争を仕掛けたとしてトランプ大統領を討とうとしたが、完全に的を外した。
トランプ氏が今年に入って中国製品に高率の関税を掛けると、中国は6月、一見賢明と思える戦略で対応した。米国内の農業地帯のトランプ支持者らを標的とした報復関税を目指した。中国は米国産大豆の最大の輸入国であり、2017年の輸入額は140億㌦に上った。最大の大豆生産州、インディアナ、ミズーリ、ノースダコタの有権者は、大統領選でトランプ氏に投票。今年の中間選挙では、民主党のジョー・ドネリー(インディアナ州)、クレア・マカスキル(ミズーリ州)、ハイディ・ハイトカンプ(ノースダコタ州)上院議員らが再選出馬していた。中国は、大豆に高率の関税を課せば、トランプ氏と、トランプ氏をホワイトハウスに送った地方の有権者の間にくさびを打ち、民主党上院議員らを後押しし、トランプ氏に関税を撤回させられる。中国の指導者らはこう考えていたようだ。
しかし、トランプ氏は撤回しなかった。農家への120億㌦の補助金を発表して対抗し、中国製品への関税引き上げを警告し、地方の支持基盤に支持を呼び掛け、その一方で、中国の経済的略奪に対抗した。地方の有権者らは、中国による関税で被害を受けたにもかかわらず、トランプ氏を見捨てるどころか、トランプ氏と共和党を支持した。ドネリー、マカスキル、ハイトカンプ上院議員らは敗北し、上院で多数派だった共和党はさらに議席数を増やした。共和党は下院を失ったが、地方の選挙区で敗北した共和党候補はわずかだった。地方の激戦区のほとんどで、共和党支持は変わらなかった。都市と都市郊外の居住者は民主党支持に回った。
◇好調な米経済
関税を使った中国の目論見(もくろみ)は、中間選挙に影響を及ぼすことはなく、それどころか逆効果だった。中国が米国に依存している大豆の価格は、関税によって上昇、中国は代わりの供給元を南米に求めたが、需要を満たすことはできず、大豆は不足している。
つまり、中国は果敢に攻勢に出たものの、自爆に終わった。
これによってトランプ氏は、中国の習近平国家主席との交渉にも強気で臨むことができた。これは、中国の通信大手ファーウェイの最高幹部の1人が、米国の要請を受けて、対イラン制裁に違反したとしてカナダのバンクーバーで逮捕されたことからも分かる。中国は釈放を求め、ブエノスアイレスでの1日の会談でトランプ氏と習氏が交わした90日間の関税をめぐる停戦を順守することを確認した。米国は来年1月1日から、2000億㌦相当する10%から25%の関税を中国製品に課す予定だったが延期し、中国との交渉を続ける。
トランプ氏は、交渉で優位に立っている。米経済は好調だが、中国の成長率はこの10年間近くで最低を記録したばかりだ。その上、アルゼンチンでの20カ国・地域(G20)で習氏は、トランプ氏が貿易でライバルを屈服させ、貿易戦争で労働者階級の政治基盤を守る力を持っていることを目の当たりにし、一方でトランプ氏は苦心の末、新たな米・メキシコ・カナダ貿易協定の調印式に漕(こ)ぎ着けた。
◇手強い中国
中国はいうまでもなく、メキシコ、カナダよりも手強(てごわ)い。アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)の同僚、デレク・シザーズ氏が指摘したように、中国共産党は、国有企業とさまざまな部門への大規模な補助金を通じて経済をコントロールしており、米国の製品、サービスは公正な競争ができない。関税を撤廃することは簡単だ。だが、中国に産業政策全体を変えさせることは難しい。米国の知的財産を盗み出すことを止めるのも難しい。
しかし、トランプ氏は、世界貿易機関(WTO)に苦情を出しても、これらのことができないことを知っている。だからこそ習氏とのチキンレースを行い、米国が全面的貿易戦争で優位に立ち、敗北することはないと考えているように見せているのだ。トランプ氏が最近、中国との合意を目指すが、必要なら喜んで関税を課すと発言したことで市場は大混乱した。しかし、この考えを習氏に分からせることが、勝利のためには欠かせない。トランプ氏は4日、ツイッターに「中国とは真の合意に達するか、まったく合意できないかのいずれかだ。その時点で、米国に輸入される中国製品に大規模な関税を課す」と投稿、さらに「忘れてほしくないのだが、…私はタリフ(関税)マンだ」と続けた。
つまりこういうことだ。トランプ氏は、関税は米国にとっていいものだと本当に思っている。問題は、トランプ氏がそう考えていることを習氏が理解するかどうかだ。合意を得られるか、貿易戦争を続けるかは、その答えに懸かっている。
(12月7日)






