保守旋風吹き荒れる、ブラジル大統領選28日決選投票へ
南米ブラジルで7日、大統領選挙が実施された。当選に必要とされる過半数を獲得した候補はおらず、軍政擁護など過激な言動で「ブラジル版トランプ」「極右」とも呼ばれる元軍人の右派ジャイル・ボルソナロ下院議員(63)と左派フェルナンド・アダジ元教育相(55)による決選投票が28日に行われる。
ボルソナロ氏の得票率は46%と事前の世論調査結果を大きく上回る数字を見せ、次点のアダジ氏の29%に大きく差をつけた。ボルソナロ氏は選挙結果に自信を深めており、「決選投票に向けて(過激な発言を控えるなど)スタンスを変えるつもりはない」と明言している。
また、大統領選挙と同時に上下両院の国会議員選挙や知事選挙も行われたが、ボルソナロ氏の長男でサンパウロ州から下院議員に立候補したエドアルド・ボルソナロ候補は、同国の国会議員選挙史上最多の得票で圧勝した。さらに、ボルソナロ氏が所属している右派の少数政党、社会自由党(PSL)も躍進を果たした。
一方、アダジ氏と同じ左派労働党(PT)から上院選に出馬したルセフ前大統領(70)は、世論調査で当選確実とされながらも落選した。ルセフ氏は2016年に弾劾裁判で大統領を罷免をされ、今回は政界復帰を目指した選挙だった。
ブラジルの大手紙の中には「保守旋風が吹き荒れた」(フォーリャ紙)との見出しで選挙を評した。特に、ボルソナロ氏は、労働党の牙城であるブラジル北東部を除き、全ての地域で得票率トップに立っており、人気が全国に広がっている。
ボルソナロ陣営の健闘ぶりと労働党への逆風の背景には、労働党に対する有権者の不満もある。労働党政権下では、資源ブームに伴う好景気の中で社会保障費がばらまかれ、新たな中流層も生まれた。ただ、社会保障を重視した政策は財政も圧迫、現在のブラジルは財政危機と経済停滞の中で失業率も高止まりしており、庶民には根強い不満がある。
さらに、カリスマ政治家として人気を誇ったルラ元大統領が収賄罪で収監されるなど、労働党から汚職絡みで多くの逮捕者が出ている。最近の政界汚職ではボルソナロ氏の名前が挙がってこないことも、同氏の選挙ではプラス材料となった。
ブラジルの大統領選挙は、これまで所属政党の組織力と資金力、政見放送で長時間の時間枠の獲得が選挙を左右した。しかし、ボルソナロ氏は、少数政党からの出馬ながら、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などネットで人気に火が付いた形で支持を広げた。今回の大統領選挙は、既存の選挙スタイルをも大きく変えつつある。
(サンパウロ綾村悟)