自民党総裁選、9条改正の機運高める論戦を


 自民党総裁選が9月に行われる。石破茂元幹事長が出馬を表明し、安倍晋三首相は3選を目指す。野田聖子総務相も出馬に意欲的だが、推薦人を確保するめどが立っておらず、安倍首相と石破氏の一騎打ちになる公算が高い。

首相は自衛隊明記を提唱

 総裁選は事実上、総理大臣の選択でもある。来年は平成から新たな御代へと移る。再来年には東京五輪が控えている。さらにその先の日本も見据えねばならない。奇(く)しくも今年は明治150年の節目の年だ。

 それだけに今回の総裁選は一政党のトップ選びで済ますべきでない。自民党員に必要なのは小手先でなく、国家像をめぐる骨太の政策論議だ。その要は言うまでもなく憲法改正論議だ。

 自民党の立党の原点をいま一度、想起してもらいたい。それは自主憲法を制定して日本らしい国柄を取り戻し、独立国家に相応(ふさわ)しい国家体制を構築し、国民道義を確立して内外に誇れる国をつくるというところにあった。立党は1955年だが、この目標は決して古びていない。

 国際安保環境が一段と厳しさを増し、人口減社会や異常気象による大規模災害など当時では考えられなかった事態も生じている。現行憲法では立ち行かず、国家の設計図を作り直す必要に迫られている。これは一部の護憲論者を除いて国民の共通認識ではないか。中でも9条改正が最大の課題だ。

 米国の衰退が露(あら)わとなり、わが国の独立と平和を守るために自衛隊の役割がおのずから高まっている。また、大規模災害の救援復興活動に自衛隊員が汗を流すことが増えた。防衛予算は5兆円を超えている。それにもかかわらず、自衛隊を合憲と言い切る憲法学者が少なく、違憲論が未(いま)だ徘徊(はいかい)している。これは自衛隊員のみならず、国民にとっても不幸なことだ。

 それで安倍首相は昨年5月、9条の現行条項を残したまま、新たに自衛隊を9条に明記する「加憲」案を提唱した。これを自民党は昨秋の総選挙で公約に掲げ、国民の信を得て、再び政権与党の座に就いた。安倍首相は9条改正案の国会提出を目指すとしている。

 これに対して石破氏は消極的だ。改憲について参院選挙区の合区解消と緊急事態条項の創設を優先事項に挙げ、9条改正には「国民の深い理解が必要」として慎重だ。党内にも異論はある。2012年の改憲草案では9条1項の「国権の発動としての戦争の放棄」は残し、2項を改め「国防軍の創設」をうたっていたからだ。

 確かに草案は国際法に準拠する常識的な内容だが、自民党は改憲発議に必要な国会の3分の2を単独で得ておらず、他党とりわけ公明党の賛成を必要とする。公明党の山口那津男代表は、安倍首相が改憲案の国会提出に意欲を示したことについて静観する姿勢だ。

真正面から議論せよ

 石破氏は9条改正に関して、2項を削除した上で「陸海空自衛隊を保持する」との規定を加える案を出していたはずだ。これは正論である。国民の深い理解が必要であれば、総裁選で真正面から議論すべきだ。