東南アジア、選挙の季節

 東南アジアは、選挙の季節を迎え、先月のマレーシアや東ティモールの総選挙では政権交代が起こった。カンボジアは来月29日、総選挙が行われる。これらの国で注目されるのは、進む中国傾斜に歯止めがかかるかどうかだ。
(池永達夫)

政権交代で脱中国なるか マレーシア、東ティモール
中国を後ろ盾に強権統治 カンボジア

 マレーシアでは先月、総選挙が行われ、1957年の独立後、初めて与党国民戦線が敗れ、60余年続いた政権与党が野党への転落を余儀なくされた。何より驚きだったのは、92歳のマハティール元首相の返り咲きであった。

ケム・ソカ氏

拘束されたカンボジア最大野党・救国党のケム・ソカ党首(中央)=2017年9月3日、プノンペン(EPA時事)

 また同月には東ティモールでも国民議会選挙が行われ、こちらも与党が敗北を喫し、独立の英雄シャナナ・グスマン野党連合「前進への改革連盟」が過半数を獲得した。

 注目されるのは、政権交代したマレーシアと東ティモールの対中姿勢に変化があるかだ。

 マレーシアのナジブ前首相は、対中傾斜を推進した中心人物だった。中国が提案したシンガポール・クアラルンプール高速鉄道やマレー半島東海岸鉄道を受け入れたのはナジブ氏だった。この東海岸鉄道は田舎町ばかりで旅客数が望めず経済合理性は乏しい。それでも中国がごり押ししたのは、南シナ海のシーレーンが不安定になった場合の輸送手段を担保するという戦略鉄道としての意味合いが濃厚なためだ。

 マハティール氏は選挙で、こうしたナジブ政権の対中傾斜を批判した。とりわけマレーシアとシンガポールの国境にもなっているジョホール水道に人口島を中国企業に造らせていることに対し、マハティール氏は「国土を中国に売るのか」と批判のトーンを上げ、国民の支持を取り付けていった経緯がある。

フン・セン氏

カンボジアのフン・セン首相(EPA時事)

 ただ、高度成長を遂げた日韓を見習えと「ルック・イースト」を唱えたマハティール氏ながら、現実のマレーシアはキャッシュを持っている中国になびき、「ルック・チャイナ」に動いている現実をドラスチックに変えることができるのかというと、話はそう簡単ではない。

 そのいい例がスリランカだ。3年前の大統領選挙でラジャパクサ氏の中国依存政策を「浅はかな外交」と批判し、当選したシリセナ氏だったが結局、「債務の罠」から抜け出せず、戦略拠点である同国南部のハンバントタ港の99年間の租借を許している。

 マレーシアも、マハティール首相の政策方針だけで対中傾斜から脱却できるかどうかは、債務の詳細を見極めないと判断できない状況がある。

 また、中国からの支援を受けている東ティモールにしても、野党連合を率いたグスマン氏は中国とは一定の距離を保つものの、同様の「債務の罠」が存在する。

 なお、東南アジアで次に総選挙を控えているのはカンボジアだ。同国では来月下旬、総選挙が行われる。

 ただ、カンボジアで対中傾斜を強めるフン・セン政権が倒されることは、まずない。

 中国を後ろ盾とするカンボジアでは、フン・セン首相の強権統治手法が顕著だ。最大野党の救国党は昨年、解党され、政府の腐敗を突くメディアはつぶされている。

 内戦が終わり、民主国家に生まれ変わった1990年代なら、こうした独裁政権のようなことはできなかった。国家運営を世界各国の援助資金に頼っていたため、西側諸国の批判を気にしていたのだ。

 だが今回、「野党第1党が参加できない総選挙は認められない」との北欧からの批判があっても、フン・セン政権は聞く耳を持たない。後ろに中国という強力な支援者が控えているためだ。