シリア化学兵器疑惑でOPCWが調査団

加害者特定の権限与えられず
アサド政権の後ろ盾、露が反対

 シリアのアサド政権の化学兵器使用疑惑をめぐって化学兵器禁止機関(OPCW)は4月21日、シリアの首都ダマスカス近郊の東グータ地区ドゥーマで試料を採取した。しかし、ロシアの反対で加害者を特定する権限は与えられていない。米軍は報復としてミサイル攻撃に踏み切ったものの、限定的攻撃の効果には疑問の声も上がっている(カイロ・鈴木眞吉)

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4月7日、シリア・ドゥーマで化学兵器とみられる攻撃で負傷し、手当てを受ける子供(反体制派活動家のフェイスブックより・時事)

 OPCWによる今回の調査の最大の欠陥は、加害者の特定までは行わないことだろう。加害者を特定する独立調査団設置を決める米国作成の決議案が10日、ロシアの拒否権発動で否決された。シリア内戦をめぐるロシアの拒否権行使はこれで12回目。ロシアはシリアのアサド政権の後ろ盾となっており、シリアの犯行確定によって国際社会からの批判にさらされることを回避したい狙いがあったものとみられる。

 加害者を特定する権限のあった国連とOPCWの合同調査チームは今まで、アサド政権の関与を繰り返し認定してきた。このチームは現在、ロシアの拒否権行使で任期切れとなっており、ロシアによる妨害が、国連を機能不全に陥らせているとの批判は強い。

 一方、ロシアが作成した独立調査団新設決議案は、中国など6カ国が賛成したものの、米英など7カ国が反対、否決された。棄権は2カ国だった。

 ロシア案は、調査団設立過程での安保理の承認や、安保理による調査結果の評価を求めている。安保理を関与させることで、都合の悪いことは拒否権発動で葬り去ろうという意図が見え隠れする。ヘイリー米国連大使は「ロシアが調査員を選定し、結果も評価できるようになっており、全く独立していない」と厳しく批判した。

 シリアの反体制派を含む欧米側は、「アサド政権軍が化学兵器を使った」と主張しているのに対し、ロシアとアサド政権側は潔白を主張。米英仏は4月14日、化学兵器使用を理由にシリアへのミサイル攻撃に踏み切った。

 もう一つの問題は、ロシアとの決定的関係悪化を避けるため攻撃が限定的となったこと。化学兵器使用再発防止への効果は、識者の見方の分かれるところとなった。ただ、マティス米国防長官は4月20日、アサド政権が、国際社会による米英仏空爆ヘの完全支持を無視するなら、「対処する用意がある」と述べ、再度の軍事攻撃があり得ることを示唆した。

 しかし、さらに大きな問題は、肝心の内戦終結への道筋が開けていないことだ。内戦に参加した各組織、各国の利害が複雑に絡み合っているからだ。

 内戦が勃発した2011年春、エジプトのシンクタンク、アルアハラム政治戦略研究所のガマル・アブデルガワード所長(当時)は本紙とのインタビューで、同時期に発生した東日本大震災の犠牲者に弔意を表明する一方で、「シリア内戦は、より絶望的だ」と、体全体で絶望感を表現した姿がいまだ脳裏に残っている。

 しかし内戦泥沼化の端緒を作ったのはほかでもないオバマ前米大統領であることは歴史が証明するものとなろう。オバマ氏は民主化運動「アラブの春」出現後のアラブ世界の中心に、イスラム法によるイスラム世界建設を夢見る「ムスリム同胞団」と、世俗主義を捨てイスラム主義に向かうトルコのエルドアン政権に委ねようとしたのだ。

 それによって、エジプトに同胞団政権を誕生させ、チュニジアは同胞団政権成立の一歩手前まで行き、シリアに内戦をもたらした。信教の自由を制限するイスラム主義者を推した結果、米国は大義を失い、イスラム主義者に翻弄(ほんろう)され、今や撤退を余儀なくされようとしている。