佐川氏証人喚問に大山鳴動してネズミ一匹の政治ショーと化す各局

◆思惑絡む政治家出演

 年度末にかけて報道番組を騒がせた学校法人「森友学園」との国有地取引に関する財務省の決裁文書の書き換え問題で、佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問が3月27日に衆参両院で行われた。

 毎度のことながら大山鳴動してネズミ一匹。事前報道の洪水の後で肩透かしを食らう。血道を上げるのは、証人喚問に与野党のつばぜり合いや政治的思惑が絡むから。ことに視聴者の多いテレビの場合、内閣や政党の支持率に影響する政治ショーと化す傾向が多分にある。

 佐川氏喚問の前、与野党から出演者が登場した討論番組、例えば18日フジテレビ「新報道2001」(自民・山本一太参院議員、立憲民主・福山哲郎参院議員、共産・小池晃参院議員)や、25日NHK「日曜討論」(前述の山本氏と福山氏、公明・山本香苗参院議員、希望の党・玉木雄一郎代表、民進・小川敏夫参院議員、共産・井上哲士参院議員、日本維新・片山虎之助共同代表、自由・森裕子参院議員、社民・福島瑞穂参院議員)では、まだ誰も分からない書き換えについて安倍晋三首相や麻生太郎副総理兼財務相ら政治家の指示はあった、なかったと結論めいた主張で説得にかかっていた。

 決裁文書が14件300カ所も改竄(かいざん)された問題は前代未聞で、何の理由で誰がやったかの真相究明は重要だ。だが、どの党の言ったことが本当らしいからと支持する類(たぐ)いの話ではない。

 また、25日の日本テレビ「バンキシャ」は、詐欺罪で拘留中の籠池泰典被告によく似た俳優らを用いて23日の野党議員との接見を再現。ドラマ調で文書から削除された首相の妻、昭恵夫人の名前に焦点を当てるなど、これら各局の番組は疑惑イメージと喚問への関心を膨らませた。

◆喚問後の冷めた反応

 注目の証人喚問は27日午前に参院、午後に衆院とそれぞれNHK国会中継で生放送された。視聴率は午前10時から1時間が9・2%、午後3時から1時間は6・8%だったという。人気アニメと比較しても、25日フジテレビ「ちびまる子ちゃん」の8・6%(いずれもビデオリサーチ)前後の関心の高さだった。

 しかし、佐川氏は「私が決裁文書の書き換えにいつどのように認識したかということについては、私が捜査の対象であり刑事訴追を受ける恐れがあるので答弁を差し控えたい」などと繰り返し、書き換えの経緯や関与について50回近く証言拒否をした。むしろ佐川氏本人が、大阪地検特捜部の捜査に逃げ込んだ形だった。また、首相、昭恵夫人、財務相や官邸関係者らの指示を否定し、書き換えは理財局内で行われ、当時の局長としての責任を認めるなどした。

 NHK「ニュース7」をはじめ各局夜のニュース番組の扱いは、証言のポイント整理、与野党各党のコメント、担当記者の与野党の反応と今後の出方の解説など、喚問後の扱いは淡々とした印象だ。

 もちろん、納得したという意味ではない。テレビ朝日「報道ステーション」が拾った街中の声は、「官僚トップの賢さもあるし予定通りの筋書きで、これで解明できるとは思ってもなかったし、しょうがないんじゃないですか」(60代男性)、「誰の指示か知りたかったが、そこにたどり着くような回答ではなかったので残念」(40代女性)、「一区切りでいいんじゃないですか。これ以上無駄な時間がもったいない」(60代男性)、「正直に言うやつはいないのかみたいなのはある」(30代男性)など。

 「担当した取材ディレクターによると真実は知りたい。でも証人喚問に関してはこうなると思っていたという方(かた)が多かったようだ」と、キャスターの富川悠太氏が他の反応を含めて大つかみに紹介したが、人々はどことなく冷めている感じだ。

◆否めぬ野党の力不足

 コメンテーターの後藤謙次氏は「相当な茶番」と酷評し、ロッキード事件で証人喚問された小佐野賢治氏の「記憶にございません」を繰り返した証言拒否に匹敵するとして、佐川氏は「国会を冒涜(ぼうとく)した」と批判した。

 だが、裏を返せば、証人喚問を強く要求してきた野党側の力不足は否めない。少数バラバラでそれぞれ質問時間が短いなど、国政調査権は国会でどれだけ強い力を持つかに左右される。その上、世論は政権交代を期待するほどとは言えない。証人喚問は刹那(せつな)的になり、ある種の諦念となって番組の街の反応に表れていたように思える。

(窪田伸雄)