佐川氏招致は同じでも、全容解明を求める産経と倒閣第一の朝日
◆公文書書き換え糾弾
「行政への信頼を失墜させた」(読売・社説13日付)、「行政の信頼損なう『森友文書』の解明急げ」(日経・同)、「国民への重大な裏切りだ」(産経・主張同)、「信頼損なう言語道断の行為だ」(小紙・社説14日付)、「民主主義の根幹が壊れる」(朝日・同13日付)、「立法府欺く前代未聞の罪」(毎日・同13日付)――。
新聞各紙の論調の見出しは、まるで糾弾の厳しさを競っているかのようである。
それほどの深刻な事態なのである。朝日は見出しに掲げたことを、産経も「(公文書を)正しく取り扱うことは、民主主義の根幹を成す」「国が根底から揺さぶられているといってよい」と主張した。小紙は「書き換えは民主主義の根幹を揺るがしかねず、到底許容できない」、毎日も「民主主義の根幹を揺るがす前代未聞の事態」で「罪は極めて重い」とまで断じたのである。
学校法人「森友学園」への国有地売却問題をめぐり、財務省が売買の決裁に関する14文書を書き換えていたことを認めた調査結果を国会に報告した。このことは、安倍晋三政権が「この1年、土地売却や財務省の対応などに問題はないと答えてきた。これを覆す」(産経)ことを意味する由々しき事態を招いたのである。
◆見方甘い読売・日経
各紙とも厳しいタイトルを掲げた中で、論調はやや抑制されているのが読売と日経である。読売は「行政に対する国民の信頼を傷付ける浅はかな行為」「財務省の規範意識の低さは目に余る」などと財務省を批判する一方で、安倍昭恵・首相夫人については「土地取引への直接の関与がなかった」のに記述が削除されていたとの判断を示したのが目を引いた。日経も「行政への信頼を失墜させる行為」と非難はしていても、全体としては解説論調で様子見である。読売は政府に「納得のいく説明」と「行政文書の管理・保存のあり方」の見直しや徹底を求め、日経は「責任の所在を含め全容の解明を」求めてまとめとしているが、やや甘い見方の感をぬぐえない。
すでに関係者で自殺者まで出ているほど、事態は深刻である。保守支持の主張で政権寄りと見られている産経ですら、事実の徹底解明しか信頼回復の道はないとして関係者の証人喚問が必要との、踏み込んだ主張を展開しているほどだ。このため、日頃、論調で対立してきた朝日とも主張の一部で重なるのである。
産経は、政府・与党に真っ先に「全容のに解明を急ぎ、国民に説明すること」を求めた。さらに、全容の解明のために、行政の長として国民に深謝した安倍首相が「信頼回復に向けて『全力を挙げて取り組む』という以上、関係者の国会招致などにも積極的にあたるべきだ」と踏み込んだのである。具体的には、麻生副首相・財務相が書き換えの最終責任者と指摘した佐川宣寿前国税庁長官(書き換え当時の財務省理財局長)を指して「佐川氏の辞任は説明責任を逃れる免罪符とはならない。与野党は協力して、国会招致を実現すべき」だと求めたのは妥当な主張と言えよう。同時に、北朝鮮危機という国難に直面するときに「政権が国民の信を失うことが、いかに政策遂行の妨げとなるか」を説いたが、日本を取り巻く厳しい国際情勢も忘れてはならないのである。
◆“安倍憎し”むき出し
佐川氏の国会招致では産経と一致しても、朝日の念頭にあるのは全容解明より前に安倍内閣の倒閣である。「公文書の改ざんは、幾重もの意味で、民主主義の根幹を掘り崩す行為」だと批判したのまではいい。だが、その後、いきなり「問われているのは安倍政権のあり方そのものであり、真相の徹底解明が不可欠だ」と、まず“安倍糾弾”を迫る。社説は主張だからとはいえ“安倍憎し”むき出しの執念のすさまじさを爆発させるのである。「(財務省のふるまいは)5年余に及ぶ『安倍1強政治』が生んだおごりや緩みと、無縁ではあるまい」「安倍1強下の行政のひずみが、公文書管理のずさん極まる扱いに表れている」と、何もかも“安倍が悪い”とばかりに畳み掛けた上で、佐川氏に加え安倍昭恵氏の国会招致を迫っている。だが、ここは何よりも全容解明が第一で、安倍政権についてはその次の話である。
朝日の前のめりに、改めて読売社説にある昭恵氏についての解説に戻り、よく比較吟味して考える必要があろう。
(堀本和博)