日本は広報文化外交に力を
エルドリッヂ研究所代表・政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ
海外出張はPRの好機
ボランティアで対話や講演を
私は最近、スイス・ジュネーブで行われた世界的に有名なシンクタンクが主催する北東アジアの安全保障会議に出席した。日米、スイス、スウェーデン、イタリア、フランスなどの代表者が出席し、20カ国ぐらいの聴衆が参加していた。今回のテーマは中国のアジア太平洋地域における振る舞いだった。学者や外交官のほとんどは中国を批判しようとしなかった。ある人は、中国を一切非難せず、日本が中国と緊張関係にあることは日本に非があると批判した。
ここ数年、経済、政治、外交、学術、安全保障の面で、中国の影響力が高まり、日本の存在感が薄いと懸念されている。中国は、他国を買収し、脅す手腕に驚くほど長(た)けている。人権、法制、近代国家として多くの価値観を共有し、世界に貢献することがたくさんある日本とは違う。国土、経済、人口で圧倒する中国と日本が直接、競争するのは難しいだろう。ただ、競争できる、あるいは、すべきなのは量ではなく質だ。
それ故、広報文化外交はとても重要であり、日本が世界にアピールする機会を逃しているのを見るにつけ、不満がたまる。
今回の欧州訪問で、日本の広報文化外交の在り方についてよく考えた。うまくいっていないのは実際に国民を巻き込んでいないからであることがよく分かった。広報文化外交は一般の人々ではなく政府が行うものとみられている。私は、「国民」に「広報文化外交」に加わってほしいと思っている。
日本ができるだけ少ない予算でいかに国際的活動を増やすのか、幾つかの提案をしてみたい。成功させるには少なくとも外務省、防衛省、文部科学省などの政府機関が参加し、数々の提案を柔軟に実行する手助けをすることが必要だ。こうした提案の良い点は、少ない政府予算でできることだ。
10年以上前になるが、第1次安倍内閣の時、米国の母校の高校を訪問し、日本の歴史、文化、政治構造などについて話をした。その時、安倍首相がサインをしたキャンペーンポスターを持って行き、安倍首相についての論文を書いている生徒に渡した。母校を訪れる義務はなかったが、私の第二の故郷を彼らに知ってほしかった。同様に、今回の欧州訪問では滞在を1週間延長し、自費で東欧諸国を旅行。ブカレスト大学とモルドバ自由国際大学で日本について講演した。両大学の学生と教職員は私の講演を興奮して聞いていた。
ここで重要なのは、依頼されて講演に行ったわけではないということだ。自主的に学校、外務省、日本財団に申し入れて講演したのである。過去、インドとインドネシアでも日米同盟と日本で勉強することの重要さについて講演したことがある。
会社の出張のほとんどは目下の仕事に限定され、海外で人脈を築き、情報交換し、日本をPRするという機会を活用し切れていない。最近、スリランカで2日間の会議に参加するよう求められた。せっかくなので自腹で南アジア、東南アジア諸国を訪問したかったのだが、会議の主催者が許可を出さなかった。日本の外務省は旅費に制限を課しているからだという。同地域で中国との争いに負けているにもかかわらず、外務省が広報文化外交分野の戦略に欠けていることはショックだった。むしろ、逆の方がいいと思う。つまり、公費で出張する場合、悪用されなければ、日本について紹介することが促されるべきだ。
それ故、政府の予算で海外を訪問する研究者や教育者、政府高官は現地の大学・機関を視察し、日本とその活動について話をする、また、学者や専門家はボランティアとして現地で非公式的な対話や講義をすることをお勧めしたい。
現地のネットワークを活用して行えばいいが、ない場合は、最寄りの日本国大使館・領事館を通して行える。その場合は、外務省が紹介やコーディネートをするため多少時間がかかる。筆者の経験から言えば、それだけの価値はある。無料で提供するのであれば、日本政府はわずかな予算を使うだけで広報文化外交を飛躍的に向上させることができる。
読者の中でも着付け、茶道、習字などの分野で資格を持っていたり、何らかの学術分野の専門家で、将来、外国を訪問するのであれば、政府機関に知らせて、大学や博物館などで自らのスキルを披露、または、得意分野について講演したいと知らせるのがいい。現地の政府代表が調整し、必要に応じて通訳を用意してくれる。文化部門か広報担当の大使館員を通してできる。
外務省と文科省はボランティア講師のデータベースを構築し、必要に応じて講師を呼び出せるようにするようお勧めしたい。経費は支払われるとしても、基本はボランティアだ。
もし、こうした仕組みがあるとしたら、数多くの愛国者、日本を誇りに思う人々がプログラムに応募すると信じている。筆者は日本人ではないが、第2の故郷日本を外国で紹介し、日本に関心を持つ世界中の人々の手助けをできることをうれしく思う。日本政府にはこうしたシステムを構築してもらい、各分野の指導者に参加してもらえるよう呼び掛けたい。