首相東欧歴訪、日本の存在感高める外交を
安倍晋三首相がバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)とブルガリア、セルビア、ルーマニアの東欧6カ国を歴訪している。いずれの国も日本の首相の訪問は初めてとなる。
対北包囲網構築を図る
今回の歴訪の最大の目的は、核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対する国際社会の包囲網構築だ。リトアニアのスクバルネリス首相との会談では、北朝鮮について「今や(首都の)ビリニュスも射程に入る弾道ミサイルを発射するなど欧州全体にとって脅威だ」と述べ、危機感を共有するよう訴えた。
首相の訪問先のうち、北朝鮮と国交がない国はエストニアのみ。6カ国との連携を強め、制裁の「抜け穴」をふさぐことの意義は大きい。
首相は昨年秋の衆院選大勝による政権基盤安定も踏まえ、首脳外交を積極的に展開していく方針だ。菅義偉官房長官は「長期政権の強みを生かして日本外交のフロンティアを広げる」と強調している。
首相の外遊は2012年の第2次内閣発足後、今回で60回目で、訪問地は70カ国・地域以上となる。今回の6カ国歴訪が終われば、首相が「歴代初」となる訪問国は21カ国となる。短命政権では難しいアフリカや中南米などの国も多い。今回も政権発足当初から推進する「地球儀を俯瞰する外交」との位置付けだ。世界各地で影響力を拡大する中国に対抗する狙いもある。
中国は近年、シルクロード経済圏構想「一帯一路」の西の玄関口として欧州を重視。中でも比較的規模の小さい中・東欧16カ国とは毎年首脳会談を開き、インフラ事業などを足掛かりに存在感を増している。
首相は今回の歴訪で、IT・サイバー防衛、物流、医療などをテーマに日本とバルト3国の官民が協議する「日バルト協力対話」の創設で合意。特にIT先進国でサイバー防衛分野で高い知見を持つエストニアとは、首都タリンにある北大西洋条約機構(NATO)のサイバー防衛協力センターに日本から専門家を派遣し、研究や演習に参加することが決まった。こうした協力関係を着実に強化していく必要がある。
またセルビアのブチッチ大統領との会談では、同国を含む西バルカン地域6カ国の欧州連合(EU)加盟に向け、日本が経済・社会改革を支援する新たな枠組み「西バルカン協力イニシアチブ」の創設で合意した。この地域で自由や民主主義などの価値観を根付かせていくことは、中国を牽制(けんせい)することにもつながろう。
関与を一層強化せよ
中国の習近平国家主席や李克強首相も活発な外交を展開している。中国はアフリカで影響力を強めているほか、インド洋でも海洋権益拡大を図っている。運営権を取得した港湾が軍事転用されれば、地域にとって大きな脅威となる。
安倍首相はインド洋と太平洋に面したアジアとアフリカを結ぶ地域の経済成長と安定を目指す「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱している。中・東欧や中央アジアへの関与も一層強化し、日本の存在感を高めていく必要がある。