総選挙与党勝利、「健全野党」の芽を育てよう
衆院選で「国難突破」を掲げた安倍晋三政権が信任された。与党が勝利しただけでなく、改憲勢力が議席の3分の2以上を占めた意義は大きい。
今選挙でもう一つ注目したいのは、国家の基盤となる安全保障・外交政策を与党と共有できる「健全野党」の芽が生じてきたことだ。これは「戦後政治」を転換させる可能性を秘めている。選挙後の動きを見極めたい。
希望がリベラル派「排除」
当初、選挙戦の“目玉”となったのは希望の党の小池百合子東京都知事だった。自ら代表に就任し「劇場型選挙」を仕掛け、民進党の前原誠司代表が希望の党への合流を図る“ウルトラC”の生き残り策に打って出た。
だが、政党は理念と政策が生命線だ。それに政権選択選挙となれば、誰を首相候補に担ぐのか、選挙の「顔」が必要だ。ところが小池氏は出馬せず、理念・政策を曖昧にした。
加えて民進党の合流に際して小池氏側は憲法改正と安保法制に賛成する人を選別して公認する「リベラル(左派)排除」を行った。希望の党は「改革保守」だから当然と言えるが、これを機に希望の党は失速した。
これに対して「排除」に猛反発したリベラル派の枝野幸男代表代行らが立憲民主党を結成。安保法制を前提とした憲法9条の改正反対を掲げたことで、理念を貫いたとの左派メディアの評価や世論の「判官びいき」に助けられ、大きく躍進した。
だが、小池氏の「排除」は間違っていたとは言えない。民進党が政権批判の受け皿になれなかったのは、安保・外交政策で意見の分かれる左右両派が混在し、国民が安心して政権を託せなかったからだ。憲法でも方針を出せなかった。
それを小池氏が“選別”し、立憲民主党と共産党、社民党の3党がマルクス系リベラル勢力という実に分かりやすい政界地図を作り上げた。これは小池氏の功績と言ってよい。
想起したいのは、現行の選挙制度「小選挙区比例代表並立制」は二大政党制を定着させるための制度だということだ。政権与党と責任野党が切磋琢磨し、政権を担い合っていくことを目指している。
だが、政権交代には大前提がある。与野党間で安保・外交政策の共通基盤があり、同時に民主主義を揺るがせないという二つの条件を満たすことだ。政権が変わるたびに外交・安保政策が揺らげば、国際社会の信頼を損ない、国益を失う。
ドイツは憲法(ドイツ基本法)で自由・民主主義を否定する政党や団体の活動を禁止し、連邦憲法裁判所は1956年にドイツ共産党を非合法化し、同党の活動を禁じている。そうした厳しさがなければ、自由国家は立ち行かない。
今回、民進党が“選別”されたことで政権批判の受け皿となる健全・責任野党の芽が生まれた。むろん憲法9条改正反対・反安保法の立憲民主党が受け皿になれるわけがない。
戦後政治の分水嶺だ
希望の党は今選挙では振るわなかったが、健全野党として成長するか注目したい。戦後政治の分水嶺に立たされていると言っても過言ではない。