戦術核再配備 6割賛成、「標的化」警戒も

北暴走 揺れる韓国(2)

 北朝鮮の建国記念日だった今月9日。さらなる武力挑発の恐れがある中、ソウルでは保守系の最大野党・自由韓国党が12年ぶりに街頭集会を開いた。案内のポスターには「文政権の5千万核人質を阻止」などと記され、サングラスにベレー帽のいでたちで退役軍人らしき男性がここかしこに立っていた。

洪準杓氏

9日、ソウルCOEX(総合展示場)前で開かれた戦術核再配備の必要性などを訴える野党・自由韓国党の集会で演説する洪準杓・同党代表

 「核には核で対抗しなければ、われわれが生き残る道はない」(洪準杓党代表)

 「文大統領は自分が南北関係の『運転席』に座ると言ったが、今、『運転席』にいるのは核・ミサイルでやりたい放題の金正恩ではないか」(鄭宇沢・院内代表)

 同党は北朝鮮の核・ミサイルの脅威を受け、1991年の米ソ合意に基づき撤収された在韓米軍の戦術核を再配備させることを党の方針に固めた。再配備を促すため議員団を訪米させ、1000万人を目標に署名運動も開始した。

 戦術核が再配備される場合、最も可能性が高いのが米ソ合意で撤収の対象から外された「空対地」型だ。ある専門家は「30個もあれば十分」と指摘する。在韓米軍が所有する戦術核を韓国空軍の戦闘機に搭載して共同訓練を実施するだけで、北朝鮮に対しかなりの抑止効果が期待されるという。

 今のところ世論の追い風もある。各種世論調査では戦術核再配備について「賛成」が6割を上回っている。募る不安感が「核武装やむなし」の雰囲気を広げているのだろうか。

 だが、政府は「戦術核再配備は検討すらしない」(青瓦台国家安保室)と慎重な姿勢だ。韓半島非核化の原則に違反し、北朝鮮に非核化を促す名分を失うほか、北東アジアに核ドミノをもたらす恐れがあるというのが理由だ。

 これに対し推進派からは「北朝鮮はとうの昔に非核化を破り、核の脅威を高め続けているというのに、いまさら非核化うんぬんは無意味」と反論が聞こえてくる。

 実は韓国側は当初から米政府が在韓米軍への戦術核再配備を歓迎しないだろうと見当をつけていた。アジア核不拡散という戦略的枠組みがあるためだ。しかし、この点について北朝鮮の核問題に詳しい金泰宇・元韓国統一研究院長はこう指摘する。

 「北朝鮮の核脅威に便乗する中国がアジア核不拡散の枠組みを悪用し、米国との覇権争いで優位に立とうとしているという大きな背景に目を向けるべきだ。韓国と日本に核武装を容認し、北朝鮮の核を防ぐことは中国の籠絡に歯止めをかけるという意味で米国の国益に合致する」

 一方で戦術核は逆効果も指摘されている。在韓米軍という特定されやすい場所への配備は秘匿性に限界があり、その分、北朝鮮がターゲットにしやすい。

 韓国は以前から北朝鮮最高指導者の暗殺を想定した「斬首作戦」を立案。昨年はその一環で射程500㌔の精密空対地ミサイル「タウルス」をドイツから購入し、先日、初の発射実験を公開した。だが、先制攻撃は失敗した時に受ける報復が甚大になる公算が大きく、実行に踏み切るのは難しいといわれる。

 戦術核も先制攻撃より報復を想定したものであり、結局、それだけでは絶対防がなければならない北朝鮮による先制核攻撃の抑止は失敗に終わらないか――。そんな懸念がくすぶっている。

(ソウル・上田勇実)