金正恩氏の素顔 過度な勝負欲、ソウル占領へ檄

北暴走 揺れる韓国(3)

 北朝鮮の異常とも映る核・ミサイルの暴走には最高指導者・金正恩朝鮮労働党委員長の「祖父の金日成主席、父の金正日総書記を上回る勝気で自信過剰な性格が多分に反映されている」(元韓国政府高官)。トランプ米大統領が国連演説で北朝鮮の「完全破壊」に言及すると、すかさず初めて直々に声明を出し「米国の老いぼれを火で罰する」と威嚇した。

金正恩

21日、平壌でトランプ米大統領の国連演説に対する声明を発表する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮通信=時事)

 その性格を裏付けるエピソードがある。

 生前、金正日総書記は最も近い幹部らとの秘密パーティーを好んで開いた。2008年、脳卒中で倒れてからはパーティーに後継者の三男・正恩氏を連れて来るようになった。

 北朝鮮内部事情に詳しい情報筋によれば、金総書記はその場で息子に一国の指導者として相応しい姿勢や言動などについてしばしば事細かに注文を付けていた。正恩氏にとってそれはかなりのストレスだったという。

 そして11年暮れに金総書記が死去した後、しばらくして開かれたパーティーの席上、正恩氏は幹部たちを前にこんなことを口走ったという。

 「令監(ヨングァン)(朝鮮語で父の意)が亡くなり、これで思い通りにできる」

 喪に服す息子の口から出る言葉とは到底思えず、伝え聞いた当時は「一瞬耳を疑う」(同筋)ほどの内容だったという。

 また金総書記は正恩氏の気性の激しさなどを理由にこんな話を漏らしたことがあった。

 「妹の与正が男だったら、正恩じゃなく与正に継がせるのに」

 韓国情報当局は3年前にまとめた北朝鮮年鑑の中で、正恩氏の性格を「過度と思われるほどの名誉欲、勝負欲、自己顕示欲に溢(あふ)れている」と分析した。リポートは正恩氏に関する著書がある米精神科医の「自信過剰、低い危険察知能力、狭い視野などの特性を持ち、自分が不死身だと錯覚する恐れがある」とする、正恩氏に対する所見も紹介している。ここから浮かび上がってくるのは核・ミサイルに狂奔する暴君の姿だ。

 正恩氏はスイス留学から帰国後、高級将校を養成する金日成軍事総合大学の特別クラスで砲兵指揮を学んだとされており、冷徹な戦略家の顔も兼ね備えている可能性が指摘されてきた。

 韓国陸軍大佐出身の朴輝洛・国民大学政治大学院長は「どうしたら敵に勝てるのか熟知している。核・ミサイルをはじめ相手を制圧するのに必要な兵器開発に血道を上げるやり方は北朝鮮にとって目的を達成する最短距離の道」と指摘する。

 正恩氏は先月、動静が半月途絶えた時、南北軍事境界線に近い韓国側の前哨(GOP)からわずか1㌔離れた地点にある北朝鮮側の前哨まで足を運んでいたことが後に判明した。

 境界線を突破し、化学兵器などで韓国軍が混乱する隙に高速道路などを使い1時間も掛けずソウルに…。

 国営の朝鮮中央通信によれば、正恩氏は再び動静が伝えられた先月下旬、最前線部隊を視察し、「ソウルを一気に占領し、南半部(韓国)を平定する考えを持たなければならない」と檄を飛ばしたという。

 朴院長はこうつぶやいた。

 「もしかしたらわれわれは古代ギリシャのアレキサンダー大王のように若く、野心家で、腹の据わった指導者を相手にしているのかもしれない」

 (ソウル・上田勇実)