トランプ米政権、バノン氏解任後の立て直しを
米国のトランプ政権幹部の辞任・解任が相次いでいる。トランプ大統領の側近中の側近だったバノン大統領首席戦略官・上級顧問の事実上の解任も発表された。今後の政権立て直しは急務となっている。
白人至上主義デモで衝突
バノン氏の前には、フリン大統領補佐官やスパイサー大統領報道官、プリーバス大統領首席補佐官らの辞任、スカラムチ広報部長の解任があった。極めて異様だ。
現在、米政権の要職はケリー首席補佐官ら軍出身者で占められている。北朝鮮の核・ミサイル開発などの脅威への対処では大胆かつ手堅いが、同盟関係を結ぶ日本にとっても米政権の不安定化は好ましくない。
昨年の大統領選でトランプ陣営の選挙対策本部の最高責任者だったバノン氏は、本命視された民主党のヒラリー・クリントン候補に僅差で勝利した選挙を仕切った。
トランプ氏の選挙戦術は、米社会でポリティカル・コレクトネスと呼ばれる政治的言葉遣いに敢(あ)えて抵触する“暴言”を多用するもので、メディアに反映されない米国民の怒りや不満に訴えるものだった。
が、選挙中の攻撃の矛先はメキシコ、中国、イスラム諸国など外国に向けられていた。今回、足元をすくわれたのは、米南部バージニア州の白人至上主義者のデモを契機に起きた暴力的な衝突に関し、大統領の発言がぶれて国内で敏感な人種差別と決別するメッセージが即座に伝わらなかったからだ。
事件は、南北戦争の南軍のリー将軍の銅像撤去に反対する白人デモを、撤去賛成派が取り囲み、非難を浴びせて衝突したものだ。敗軍の将とはいえ、歴史上の人物の銅像の撤去に反発する声はあろう。解任前にバノン氏は米メディアに、白人デモは「少数派」で「ピエロ」にすぎないと語った。
確かに、現在の状況はその通りでも、南軍旗や古い差別主義者の服装での示威行動を“戯(おど)け役”と座視することはできない。暴動を発端に女性1人がネオナチの思想歴のある男の車にはねられて死亡した。放置すれば、さらに深刻な事態を招く。
米国は民主主義の普遍化を求め、人種差別との戦いを経験している。奴隷解放を宣言し、北軍を率いたリンカーン大統領の精神を、ワシントンに記念堂を建て息づかせている。
第2次大戦後は公民権運動の過程で暴動事件が頻発した。その頂点が50年前の1967年に起きたデトロイト暴動だ。当時のジョンソン大統領は、鎮圧に陸軍州兵を投入したほどだ。
翌年の68年には黒人指導者のキング牧師が暗殺され、その葬儀に参列し、人種問題解決に積極的だったロバート・ケネディ氏も大統領予備選の最中に暗殺された。今もなお解消されぬ、極めて微妙な歴史的問題だ。
舵取りの安定を期待
バノン氏は解任後、トランプ政権は穏健派が主導するだろうと見通したが、昨年の大統領選後に生じた米国社会の亀裂の修復を図り、世界各地の安全保障問題に積極的役割を果たそうとするようになった米国の舵(かじ)取りが安定するように期待したい。