日本の人種差別は減少、反ヘイト口実の言論圧迫が心配

山田 寛

 ヘイトスピーチ対策法施行から1年。先月、記念集会が東京などで開かれ、より包括的で強力な「人種差別撤廃法」を求めるアピールが採択された。右翼団体の在日たたきデモは減ってきた。でも左派陣営は、「彼らは『××国死ね』などと、より巧妙に政治的意見の様に装っている」「対象者が侮辱や恐怖を感じればヘイトだ」とし、法強化を主張する。

 私もヘイト大反対だ。大学の授業でも「朝鮮学校女児のチマチョゴリの切り裂きなど、事実なら最低の行為だ」と力説してきた。だが、強力な撤廃法はちょっと待て、と言いたい。

 先月、一橋大の学園祭で予定された作家、百田尚樹氏の講演会が、学生らの反レイシズム組織の圧力で中止されたという。圧力の理由は「特定民族への差別発言をしている人物だから」。対策法に悪乗りした旧治安維持法的言論予防封殺ではないか。

 今年初めには、「ヘイトとレイシズムのりこえ」を掲げる団体の共同代表の在日韓国人らと沖縄反基地デモの関わりを扱ったテレビ番組が、「ヘイト放送を許すな」の非難攻撃を浴びた。言論と表現の自由が脅かされつつある。

 日本の人種差別は、以前より大幅に減少、改善された。約30年前は、日本の政治指導者の黒人差別発言最盛期で、国際的批判を招いた。裏にバブル絶頂期のおごりもあった。

 首相が、黒人の知的水準が問題だと言い、与党幹部が「黒人は失敗してもアッケラカ」と言い、法相が、不法在留外国人の多い新宿歌舞伎町を視察し、「悪貨が良貨を駆逐する。米国でクロが入ってシロが追い出される様に」と発言した。

 法相発言の時は、駐米日本大使館に抗議デモが押し寄せ、米下院も非難決議を採択。首相が米テレビで陳謝し、謝罪議員団も派遣される大騒ぎとなった。

 当時ワシントンにいた私は、タクシーを拾った途端、黒人運転手にすごい剣幕で怒鳴られた。「日本人だな。あんな発言、あんたはどう思うんだ?」

 返答次第で腕の2、3本は折られそうだった。大急ぎで答えた。

 「本当にひどい発言だ。彼ら古い世代は人種問題など全くわからない。でも今後の若い世代は違うよ。」

 それで何とか無事にすんだ。

 そんな嵐を経て、日本社会の意識は進んだ。2000年代前半には、日韓のサッカー世界選手権共催、韓流ブームもあり、在日韓国人との距離感もぐっと縮まった。

 その後、北朝鮮の拉致と核、中韓の対日歴史攻勢などがあり、反作用で各々への反発が高まったが、人種差別とは別と言えよう。

 人種差別減少を特に感じるのは、スポーツ応援だ。昔のプロ野球の球場では、滅茶苦茶な差別野次が黒人選手に飛び、他の観客も笑って喜んでいた。今、飛ぶのは大声援だけだ。ゴルフでは、韓国の美女プロが人気を集めている。数年前、選手権のテレビ中継を見ていたら、優勝争い中の中国女子選手が最終ホールでパットをした直後、ギャラリーから「入れー」という日本語の大声が飛んだ。その声に感動した。

 私は難民やその子弟などの面倒を見るNGO活動をしているが、そんなワケあり外国人青年の就活の壁も、低くなってきた。偏見を一層排す心の努力、特に教育は今後も最重要だが、日本が反××国教育を行っていないことは、誇ってよい。

 「日本死ね」も「××国死ね」も下品な罵(ののし)りだ。しかし、横田めぐみさんの偽遺骨をよこし、「日本を焦土にする」と脅す国に上品に激しく反発しても、在日の人が「侮辱や恐怖を感じた」と言えばダメなのか。そんな法律、御免蒙(こうむ)りたい。

(元嘉悦大学教授)