北朝鮮めぐるサイバー戦 エスカレートする報復
米のサイバー破壊工作
北朝鮮の核武装の脅威で日米韓が揺れている。
韓国内に米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備を決定し、トランプ大統領は4月2日付の英紙でのインタビューで、「中国が北朝鮮に圧力を掛けることに協力しない場合でも、米国は北朝鮮の核の脅威に単独で完全に対応することが可能だ」と述べた。
米国前政権の「戦略的忍耐(strategic patience)」はもう終わりだと、ティラーソン国務長官もこの3月訪韓の際、北朝鮮にレッドラインを超えた行く末のシナリオを言い渡した。新政権の米国家安全保障会議では北朝鮮が一番多く議題に挙がっているとされている。
3月22日、そして4月6日の北朝鮮によるミサイル発射の失敗は、米サイバー軍のサイバー戦、「left of launch」作戦(ミサイルの発射直前あるいは直後にサイバー攻撃を行いミサイル制御を不可能にする)によると分析するのが妥当であろう。同作戦は、オバマ政権が2014年から北朝鮮ミサイルを無力化するために遂行してきた。
北朝鮮は、国連安全保障理事会の制裁決議に違反し、兵器の高度な内部制御用電子機器を輸入に頼っている。ミサイル打ち上げに関わる電子機器にマルウェアが仕組まれていた。第2次大戦中に連合国はドイツ・ナチスの弾道ミサイルのV2ロケット開発プログラムにスパイを潜入させていた。歴史上、敵側に破壊工作を行うのは常套(じょうとう)手段である。
北朝鮮の軍事力は、精鋭組織を誇り、世界のトップクラスとされるサイバー軍によって強化されている。規模はおよそ7000人で、その中のエリートハッカー集団は121部隊と呼ばれており、小学生の時からトレーニングを受け、さまざまな恩恵を受けている。
2014年のソニー・ピクチャーズへのハッキングで、同社の7割のコンピューターシステムが不正侵入を受けた。このサイバー攻撃を121部隊が所属する北朝鮮の情報統制センターが指揮していた(15年、当時米国国家情報局長官談)。
ロシアによる米大統領選妨害は、インテリジェンス・コミュニティーにおいてサイバー戦争という位置付けではなく、各国に対して折々の思惑で行うサイバー技術を駆使するというものであり、サイバー窃盗と見られる。しかし、北朝鮮については別の次元であり、サイバー戦争がすでに活発化していると見るべきだ。米国は北朝鮮のミサイルシステムを、そして北朝鮮は国際銀行制度をサイバーパワーで狙う。
有利な北の「防衛能力」
特筆すべきは、北朝鮮はITインフラを国内にほとんど持っておらず、国外にその基幹を敷いている点だ。IPアドレスも米国のニューヨーク、ロサンジェルスなど一部地域のそれよりも少ないとされている。
敵国のパワーグリッド、携帯ネットワーク、インターネット・プロバイダーや金融システムなど民間のサイバーシステムを破壊することが可能であり、インターネット接続を多く持たない国は敵国からのサイバー攻撃、つまり報復措置を恐れる必要がないため、自国の防衛能力はそれだけ高まる。
この度、トランプ政権はシリアが化学兵器を使用したと断定し、シリア空軍基地への空爆実行に臨んだ。空爆はトランプ大統領が訪米中の習主席との会食中に直接伝えるという、事前のシナリオには載っておらず、外交上でも異例の格好となった。北朝鮮、ロシア、そして中国に向けた明らかな警告シグナルだ。
北朝鮮はロシアと中国同様、ハイブリッド戦争の一環としてプロパガンダやメディアを利用し、自国に有利なように疑念を海外に植え付け、同盟を分裂させようとしている。今後も核・ミサイル開発を正当化し、米国のシリア攻撃でますますサイバー合戦が繰り広げられていくだろう。
各国の思惑が渦巻く中、報復合戦が止まらない。