オバマケア見直しで共和党結束できず
トランプ氏の「交渉力」疑問視も
トランプ米大統領は24日、共和党保守派の反対などで成立が見込めなかった医療保険制度改革(オバマケア)の見直しを撤回した。政権発足初日から大統領令を出すなど実行力をアピールしてきたトランプ氏だが、「議会対策の試金石」(米メディア)となった目玉政策が失敗したことで、政権の求心力低下も指摘されている。今後、トランプ政権は税制改革などを進める方針だが、「オバマケア見直し法案を撤回に追い込んだ勢力が、大規模減税などの野心的な政策も脅かしている」(ワシントン・タイムズ紙)状態で、調整は難航が予想されている。(ワシントン・岩城喜之)
難航予想される税制改革
民主党と協議で保守派を牽制か
「非常に僅差だった。共和党の誰かについて、悪く言うつもりはない。民主党の支持がなかった」
トランプ氏はオバマケアの見直しを撤回後、ホワイトハウスで記者団を前に悔しさをにじませながらも、代替案に賛同しなかった共和党議員の批判を控えた。
しかし、2日後の26日には一転して、オバマケアの完全撤廃を求めて見直し法案を拒絶した、共和党下院議員の保守派でつくる「フリーダム・コーカス」(自由議員連盟)を強く非難。ツイッターに「フリーダム・コーカスによってオバマケアが救われ、民主党は笑っている」と書き込んだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、オバマケア見直しが失敗したことについて「トランプ氏が信頼できる政治連合を築けていなかったことが浮き彫りになった」と強調。トランプ氏が強みだとアピールしていた「交渉力」も疑問視される結果となったと指摘した。
トランプ氏は今後、レーガン政権以来約30年ぶりとなる大規模な税制改革に取り組む姿勢を示している。スティーブン・ムニューチン財務長官は、オバマケア見直しより税制改革の方が「成立は容易だ」として自信をのぞかせるが、トランプ氏が党内をまとめ切れなければ、今後もつまずく可能性がある。
税制改革では、「巨額の財政支出に懐疑的な財政保守派を説得できるかがカギを握る」(WSJ紙)ことになる。
下院の共和党指導部は連邦法人税率を35%から20%に下げる改革案を示している。輸入課税を強化する「国境税」や、経済成長による税収増などで法人税の引き下げ分を補うとしているが、「国境税」をめぐっては共和党内で意見が割れており、調整は難航している。
また、オバマケアと比べて税制改革は多くの業界や議員が絡んでいるため、議会でより複雑な多数派工作が必要となる。財政赤字削減を見込んでいたオバマケアの見直しが撤回に追い込まれたことも、「税制改革をより難しくしている」(ポール・ライアン下院議長)。
一方で、トランプ政権は今後の重要政策で民主党とも協議する考えを示唆している。
ラインス・プリーバス大統領首席補佐官は26日、FOXニュースの番組に出演し、税制改革を進めるため「誰とでも話し合う用意がある」と強調。民主党の一部が受け入れやすい中間層向けの減税を盛り込むことで、支持を得られるようにする考えを示した。
トランプ氏も税制改革について「何人かの民主党の支持があれば、うまくいくだろう」と述べ、超党派の協議に意欲を示している。
ただ、民主党の協力を取り付けるのは、共和党内をまとめることより難しいとみられる。民主党は「反トランプ」色を強めており、重要法案を廃案に追い込むことで、トランプ政権の政策実現力のなさを有権者に訴える戦略を取るとの見方もある。
このため、トランプ政権が民主党との協議をちらつかせているのは、オバマケア見直し法案に賛同しなかった保守派を牽制(けんせい)する意味合いが強いといえる。プリーバス氏は、民主党との協力姿勢を示したことについて「(保守強硬派への)事実上の警告だ」と指摘。民主党寄りの政策を望まないなら、共和党が結束する必要があるとした。
国防費を540億㌦(約6兆円)増額する2018会計年度(17年10月~18年9月)予算案の成立も難航が予想されている。米メディアによると、高齢者に食事を届けるサービスの廃止や予算削減などをめぐって、複数の共和党議員らが反発。リンゼー・グラム上院議員を中心に、廃案に追い込む構えを見せている議員もいる。
党指導部は8月までに税制改革法を成立させたい考えを示しているが、それまでに党内をまとめられるか、トランプ氏の真価が問われることになりそうだ。