勇敢な父ちゃん
16年前の今頃。体育部の記者としてバスケットボールを担当していた。2人目の出産を控えた妻から急ぎの電話がかかってきた。「陣痛があって病院に行くので早く帰ってきて」という。しばらく考えてから「今はダメだ。夜に行くよ」とだけ返事した。夕方にバスケットボールの試合があったので、デスクに話しても「君が子供を産むの」と言われるだけだと思った。妻は近所の教会の執事さんのお世話になって無事出産した。その日の夜9時になってようやく息子と初めて対面し、次の日は通常通り出勤した。社規に「子供が産まれた時は3日休暇」という規定があることを知ってはいたが、構わず働いた。休暇という言葉自体を口にしがたい時代だった。それは記者だけのことではない。
“勇敢な父ちゃん”たちが増えているという。勇敢な父ちゃんは子供の世話をするため休暇を取る男性サラリーマンを当てこすった言葉だ。隔世の感がする。雇用労働部(部は省に相当)は一昨日、昨年の男性の育児休業者は7616人で、前年(4872人)比56・3%増加したと発表した。男性の比率は8・5%で、ほぼ10人に1人。仕事と家庭の両立を手助けしようという企業が増えたのに加え、新世代の父親たちの育児休業に対する認識が変わったというのが専門家の解釈だ。
果たして現実もその通りだろうか。大企業や公共機関を除いた大部分のサラリーマンにとって、勇敢な父ちゃんは依然、他人事だ。空気を読まず育児休業を口にすると「会社への思いがない」「昇進を放棄するのか」と文句を言われるのが普通だ。親しい同僚からも「利己的な奴」と見られるようになったとの声も聞く。現行の男女雇用平等法は、会社が正当な理由なく育児休業を拒否した時は500万ウォン以下の罰金を科す。法律がそうなっているという話だ。
先日、気の毒なことが起こった。3人の子供の母親である30代の保健福祉部(省)女性公務員が過労のため死亡した。育児休業を終えて仕事に復帰し数日しかたっていなかった。夫は他の経済官庁の公務員だ。内情は分からないが、彼が育児休業を取っていればどうだっただろうか。このニュースを聞いた黄教安大統領権限代行は「公務員が男性の育児休業活用の先頭に立ってほしい」と訴えた。育児休業制の拡大方策を整備するという話も聞こえてくる。父ちゃんが勇気を出すべきだ。時には「嫌われる勇気」も必要であるはずだ。
(1月27日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。