米のシリア政策失敗顕わに

 丸6年を迎えようとするシリア内戦は、「ロシア主導、トルコとイランの協力」により収束に向かう可能性が出てきた。そこには反体制派を支援し、内戦に大きく関わったはずの米国の姿はない。オバマ大統領のシリア政策が完膚なきまでにたたきのめされた結果でもある。オバマ氏のシリア・中東政策の何が根本的な問題だったのか。
(カイロ・鈴木眞吉)

ムスリム同胞団の本質見誤る


アルアハラム戦略研ファラハト氏、イスラム教指導者は古い思考からの脱却を

 昨年末、本紙がインタビューしたエジプトのシンクタンク、アルアハラム政治戦略研究所のモハメド・ファイエズ・ファラハト氏は、オバマ氏の中東政策の失敗の主要3原因を挙げる中で、同氏のムスリム同胞団に対する認識に誤りがあったと指摘した。

モハメド・ファイエズ・ファラハト

モハメド・ファイエズ・ファラハト氏

 オバマ氏は、イスラム勢力内に、国際テロ組織アルカイダのような過激グループと、穏健なグループがあると誤解、ムスリム同胞団を穏健派と見誤って支持したと断言した。

 すなわち、ムスリム同胞団の本質は、ナセル元大統領暗殺未遂事件やサダト元大統領暗殺事件を含む各種テロ事件を引き起こした過激派で、エジプト政府を歴史的に悩ませてきたが、オバマ氏は、その経験を無視し、同胞団支持を続けたと指摘した。

 エジプト政府は、同胞団と過激派の間には思想・宗教・信仰上に全く差がないことを熟知していたが、オバマ氏はそれも学ばなかったというのだ。モルシ同胞団政権が崩壊した後も、支持を続けたことがさらに大きな問題だったと振り返った。

 紅海沿岸の都市イスマイリアで生まれた同胞団は、パレスチナやリビア、シリア、ヨルダンなど中東全域・世界中に拡散、各国の憲法に「イスラム法(シャリア)」が適用されるよう運動を展開している。イスラム教の聖典「コーラン」と預言者ムハンマドの言行録「ハディース」に固執、そこから導き出される法的部分をイスラム法とし、全世界各国の法律に採用されるよう、各国に活動拠点を持ち、運動している。

 イスラム法に固執することの最大の問題点は、イスラム教だけが正しいとする独善・排他の思考を生み、他宗教との対立を先鋭化させることで、「信教の自由」にも反する。コーランは神からの啓示故に全く正しく、そこから導き出されるイスラム法も、“神の法”故に、一字一句永遠に変えてはならない法だとする思想・信仰が背後にある。

 ファラハト氏は、「オバマ政権がムスリム同胞団を支持することは、各国の過激派を支援していることになり、大問題だ」と明言した。

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アレッポ東部に入った、シリアのアサド政権軍(2016年11月27日、AFP=時事)

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 オバマ氏は、「アラブの春」以後の中東世界を、ムスリム同胞団とトルコに委ねる決定を下した。ところがトルコは、以前は、政教分離を国是とする中東・イスラム世界の優等生と見なされたが、エルドアン現大統領による政権掌握以来、国家のイスラム化を進め、オスマン帝国の再現を目指す、民主主義とは正反対のイスラム主義に陥った。同氏は、同胞団の世界組織の長とさえ見られている。

 オバマ氏は、シリアで、独裁的とはいえ信教の自由を認めた世俗政権であるアサド政権よりも、信教の自由と民主主義を否定し、宗教的独裁傾向必至のイスラム主義の同胞団を支持するという、大きな誤りを犯したのだ。

 オバマ氏が、同胞団を穏健派と誤解した結果、アサド政権側をして「米国はテロリストを支援している」との主張に一定の説得力を持たせ、ロシアの介入を招き、ロシアに反テロの戦いとして正当化させる結果を生んだ。

 反体制派のうち、どこまでが穏健派でどこまでが過激派かをめぐる、米露間での議論も、内戦を長引かせた大きな要因になったことを見れば、オバマ氏のイスラム理解の不十分さがシリア内戦を泥沼化させた一大要因だったことが理解できる。

 ファラハト氏は「われわれは、トランプ次期大統領が、オバマ氏の政策を抜本的に変えるよう願っている」と結んだ。

 テロの原因となるイスラム過激思想を消滅させる最良の方法は何かとの記者の質問に対し、ファラハト氏は、イスラム指導者が勇気を出して新たなファトワ(宗教令)を出し、コーランではない「古い書籍」類を批判すべきだと語った。

 この古い書籍には、「非イスラム教徒は殺害してもよい」「非イスラム教徒がイスラム教徒の国に住むことを許されるには税金を納める必要がある」とのコーランの思想で貫かれており、現代の国際的な価値観や常識とは懸け離れている。同氏は、時代錯誤的思考を現代に適した考えに変えるべく、イスラム指導者の勇気に期待を寄せた。