参院選1票格差、制度改革論議と人口政策を
7月に行われた参議院選挙地方選挙区の定数と有権者数から割り出された「1票の格差」が最大3・08倍(1月1日、住民基本台帳で)だったのは投票価値の平等を損ない憲法に違反するとして、弁護士グループが全国各地の高等裁判所に起こした訴訟の判決が間もなく出そろう。今のところ「違憲」判断を示した判決は出ていないが、選挙制度改革や憲法改正を視野に置いた議論を深めて対処していく必要がある。
「合区」を初めて導入
参院選の1票格差をめぐる訴訟は26日に「違憲状態」の判断を示した広島高裁松江支部の判決まで10件の高裁判決が出ており、「違憲状態」が6件、「合憲」が4件となっている。
これから来月にかけて6カ所の高裁で判決を控えており、8日の名古屋高裁で判決が出そろい、その後に最高裁が統一判断を下すことになる。最高裁は国会に引き続き是正を促すことが予想される。
国会は昨年、1票の格差を是正するために公職選挙法を改正しており、今回の参院選は「鳥取・島根」「徳島・高知」を合区して行われた。これに付け焼き刃との批判もあった。
自民党と連立を組む公明党は、格差をより縮小するために20選挙区を10選挙区に合区する案を示し、当時の民主党などとともに参院に共同提出した。しかし、法改正が2013年に最大4・77倍あった1票の格差を縮めたことは認められよう。
また、現状の人口分布のまま1票の格差是正を追求すればするほど、都市部と地方の格差を拡大しかねない矛盾もはらんでいる。過疎化が進む地方の議員が減り、都市部の議員が増えれば、地方の声を国政に反映させるパイプが細ることになる。
現に、今回の参院選で初めて合区となった鳥取県、島根県、高知県、徳島県からは不満の声も上がり、最高裁が14年11月に示した判決で都道府県単位で定数を設定する制度を改めるべきだとしたことに対する疑問も根強い。このため、全国知事会では参院選後の7月29日に合区解消を求める決議を採択し、最高裁判例を踏まえながらも「憲法改正についても議論すべき」と訴えた。
ただ、憲法改正は時間を要するため、格差縮小と合区解消のためには人口の多い都府県の定数を相応に増やすことが考えられる。が、現行制度内の是正により、参院地方選挙区は東京都の改選6をはじめ神奈川県、大阪府などで定数が多くなる一方、改選1の「1人区」が32に増えるなど偏りが生じている。
このため、今後は人口が集中する都府県は選挙区を複数にする「分区」をし、選挙区の定数を増やした分を比例区から減らすなど試行錯誤も予想される。
地方創生の成果待たれる
一方、国会での選挙制度改革協議と並行して、政府は地方の人口を増やす政策の実績を挙げることで1票の格差問題の解消を目指してほしい。福井県の有権者人口があと9000人ほど増えていれば、今回の参院選の1票の格差が3倍を超えることはなかった。合区になった4県はじめ地方の人口増加に結び付く地方創生の成果が待たれる。