「LGBT差別解消」の到達点 左翼による家族解体
日本社会の弱体を招く
東京都渋谷区で昨年3月、同性のカップルを「結婚」に相当する関係と認める「パートナーシップ条例」が全国で初めて成立した。その条例に基づいて、「パートナーシップ証明書」の発行が始まったのは同年11月から。それを控えていたこともあり、昨年の今ごろは、いわゆる「LGBT」(性的少数者)に関する報道で溢(あふ)れていた。今はメディアがこのテーマを取り上げる回数はかなり減っているが、リベラル・左派の新聞・テレビを中心に、パートナーシップ条例の広がりや「同性婚」の合法化を後押しする論調が続いていることは1年前と変わらない。
そんな中、月刊「WiLL」11月号で、ノンフィクション作家の河添恵子氏とアカオアルミ(株)代表取締役社長の赤尾由美氏が対談している(「安倍さん、プーチンって大丈夫なの?」)。赤尾氏の伯父は、赤尾敏・大日本愛国党総裁(故人)。中国共産党による独裁を批判し続ける河添氏が対談の中で、「我々“国防女子”」と自任するように、両氏とも筋金入りの保守派である。
対談の話題は、中朝露問題、民進党、憲法改正と多岐にわたるが、両氏とも歯に衣(きぬ)着せず持論を展開し小気味よい。その対談で、河添氏がLGBTに触れている。
「家族解体の流れの中に、LGBT差別解消法案もあるように思います」。そして、「日本には性的少数者に対する理解不足はあるかもしれませんが、差別意識はありますか?」と同法案に警鐘を鳴らす。
LGBT差別解消法案は通称名で、正式には「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」で、民進、共産、社民、生活の4野党が先の臨時国会で衆院に共同提出した。LGBTに対する差別的扱いを行政機関や企業に禁じるとともに、国の是正指示や勧告に従わない場合、その企業・学校を公表する措置も盛り込んでいる。
法律を制定しなければならないほど、日本人に差別意識があるのかと問う根拠の一つとして、河添氏はテレビに性的少数者と思われる人たちが毎日出演していることを挙げている。同氏の指摘に、筆者はワシントン特派員時代(約20年前)に、日本に滞在したことがあるという米国人の同性カップルと話をした時のことを思い出す。彼らは「日本は差別がないから好きだ」と語ったのだ。差別意識がまったくないわけではないだろうが、米国と比べたら、性的少数者に寛容な社会であると言えるだろう。
にもかかわらず、同法案が提出された背景には、共産主義勢力による家族解体の狙いがあるというのが河添氏の主張だ。「日本の強みは皇室、財閥系企業、家族にあるとコミンテルン(共産主義インターナショナル)、そして中国共産党は分析し、結論づけています。コミンテルンは日本の左派を動かし、国連と連動しながら家族解体のための工作に邁進してきた」。その具体策が「ジェンダーフリーであり、母子の引き離しである」というのだ。赤尾氏も「次から次へと、日本弱体化政策に忙しいですね~」と同調する。
「人権至上主義」と表現したくなるような風潮が蔓延(まんえん)する昨今である。活発化するLGBTの権利拡大運動に反対すれば、「差別主義者」「異性愛主義者」のレッテルを貼られるのは目に見えているから、保守派の言論人でもよほど肝っ玉が据わっていないと反対できない。
そんな言論空間において、同法案は家族解体につながるという発言が女性言論人から出るのを目の当たりにすると、家族問題に関しては、男性よりも女性の感性の方が鋭いと感じる。ベストセラーとなった「家族の病」をはじめ、家族を否定的に捉える本を出したり、講演活動を続けたりする下重暁子氏を真っ向から批判したのは評論家の金美齢氏だった。
では、LGBT差別解消法案は、本当に家族解体につながるのだろうか。LGBT活動家たちは「家族を破壊するつもりはない」と主張している。
この問題を考える上で大変参考になる発言がある。冒頭のパートナーシップ条例成立の立役者で、同条例成立後に渋谷区長になった長谷部健氏の発言だ。これから日本の社会は「もっといろいろなことがフラット化し、多様性も進んでいくでしょう。私は、その速度を早めるお手伝いをしたい」(「『LGBT』差別禁止の法制度って何だろう?」)。
「いろいろなこと」の中には、家族制度とそれを支える性モラルも入っている。それを「フラット化」し「多様性」を進めれば、何が起きるのか。本人の自覚は別にして、日本が家族の弱体化ひいては国家の弱体化に直面するのは間違いない。
編集委員 森田 清策