ステルス機F35配備に期待

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

国内生産体制の整備を
大出力エンジンの開発急務

 先日、岩国基地への米海兵隊F35Bの配備予定が公表された。4カ月後の来年1月には10機が、引き続き6月に6機が加わるという。航空自衛隊のF35Aの導入も、予定通り要員教育などが進んでおり、年内に米国内で初飛行、年度内に国内に到着する予定となっている。既に交代配備で沖縄にたびたび所在する米空軍F22と並んで、我が国の防空体制も、第5世代・ステルス機の時代に入りつつある。若干の所見を披露したい。

 まずステルス機の革新性について紹介したい。全ての防空作戦は、航空機の発見、追尾が基礎であることは論をまたない。このため各国とも領土領海上空には警戒監視レーダー網を設けている。ところが、最新のステルス技術は、従来のレーダーではほとんど探知できないレベルに達している。要するに、在来手段では「見えない」のである。嘉手納基地に飛来するF22の管制を担当し、空自との共同訓練を体験している我が国は、その技術性を十分承知していると言ってよい。戦闘機は、技術的ブレークのたびに「世代」名が付けられてきた。超音速・全天候・高機動などが該当するが、技術進歩の特性上連続的な進歩・変化が多くその区分はあまり明確ではない。しかし今般の「第5世代機」に関してはステルスという大きなジャンプがあり、分かりやすい。

 現在就役している戦闘機は米空軍F22のみであり、続くF35が、米軍をはじめ国際開発に参加した欧州諸国、そして我が国などへデリバリーが始まっているのである。米国はもともと爆撃機のステルス化に力を注ぎ、B1、B2という機体を完成させたほか、F117という多分に実証機的な戦闘機を開発してきた経緯があり、この面で一歩抜けていると言える。

 他国のステルス戦闘機開発の状況を見てみたい。最も実用に近いのはロシアであり、ステルス機に必要な技術をほとんど完成させていると考えられ、近年中の配備が予想されている。欧州は、英国がF35開発に参画したため、戦闘機プロジェクトは無いが、フランスは、無人機「ニューロン」としてステルス開発を進めており、試作機の初飛行を終えている。ステルス機としての評価は高い。中国は、J20およびJ31の2種類のステルス機を開発中である。J31は、輸出用としてパキスタンを念頭に開発しており、中国軍の戦闘機としてはJ20を考えているようである。中国の泣き所は高推力のエンジンにある。ステルス機独特の巨大な機体に対応する大出力エンジンが得られず苦戦しているようである。

 我が国の状況は厳しい。ステルスの基礎技術研究は継続されており、機体表面の反射制御、コックピット、エンジン吸入口などの電波反射源対策などについては技術的に対応が進んでいる。これらを基に技術実証機「心神」が4月に初飛行し話題となったが、あくまで技術実証機であり、実用的な試作にはまだまだ距離がある

 ステルス戦闘機の機体の特徴はその大きなサイズであろう。これは従来主流であったウエポン外装では、ステルス効果がなくなるため、ウエポンを内装し、発射時のみ弾扉を開く方式を採用することによる。またこれは、大きなレーダー反射源である吸入口を長いサイズのものとし、反射波をダクト内の電波吸収材で十分減衰させる必要性とも相乗している。このことは、大出力・高効率のエンジンが開発の鍵と言って過言ではない。従って米露はエンジン生産に抜きんでた力を有しており、英仏がこれに次ぐ。中国は既述のように苦戦を続けており、我が国は最も遅れている。これからの戦闘機開発を考えるとき、大出力エンジンの開発に資源投入を加速させることが急務であろう。

 今後の我が国の課題について考えてみたい。おそらくF35の日米の配備により、我が国周辺での防空システムの質的優越性は一段と増すものと考えられるが、機数的にはF4の減勢対処のための処置であることから42機が計画されており、数的に大きなものでは無い。むしろ、現在主力機として活躍中のF15、F2の後継も検討すべき時期に来ていることから、中国の空母建設、ステルス機開発の進捗(しんちょく)をにらみながら、慎重に将来策を検討する必要性を強調したい。

 また、F35導入に伴う国内生産体制の整備も極めて重要である。我が国航空工業界の先進技術を支えてきたのは、先進戦闘機の導入・ライセンス生産による技術習得・育成が基礎にある。これらを基にF1、F2の開発があり、F2で培った一次構造部材に至る全ファイバー構造の技術は世界が認めるところであり、B787主翼生産・国産旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)の開発へと結び付いているのである。今回もF35の導入は、またとない技術進歩の機会でもある。従来と異なり国際共同開発という冠があり、ライセンス国産、F35のアジア地域整備補給拠点化への発展には、多々制約はあろうことは理解できるが、防衛技術基盤堅確化という大局的な見地から、着実に生産体制を一歩進めることを期待するものである。

(すぎやま・しげる)