福島市、組織票固め逆転狙う岩城
先月26日夕、福島市で行われた岩城光英法相の総決起集会の会場は、約2000人の支援者らで埋め尽くされ、熱気に包まれた。そこへ、「ロッキーのテーマ」の入場曲で岩城がスポットライトを浴びながら客席後方から登場すると、大きな拍手や声援で迎えられた。
馳浩文科相や佐藤正久参院議員による「民共連携」批判の後、壇上で岩城は「閣僚として大きな責任を担っている。それだけに野党連合に負けるわけにはいかない」と民進党の増子輝彦への対抗心をあらわにした。
定数が2から1に減り、与野党の現職による事実上の一騎打ち。6年前の参院選では、岩城は、トップ当選の増子に約2700票の僅差で後塵(こうじん)を拝した。さらに今回、増子には、野党候補一本化による共産、社民票の上積みも見込まれ、岩城の「落選危機」が序盤段階で伝えられた。
このため、自民党本部は強力にバックアップ。安倍晋三首相は、国会閉幕直後の3日に福島入りしたのに続き、22日の公示日にも郡山や須賀川で応援演説。岩城の個人演説会には連日、党幹部や閣僚が応援に駆け付けている。このほか、県内143の業界団体による選対本部を初めて設置し、組織の引き締めも強化した。
また、福島の農協系政治団体は、東北で唯一、自民党候補である岩城を推薦。「必勝」の鉢巻姿で遊説する岩城は、JAの支店前など支援団体の関連施設でも演説。「増子の地元、郡山を含む中通りを重視」(選対関係者)して、支持層の切り崩しを図っている。
さらに「安倍総理から直接、電話がかかってきた」(加藤憲郎新地町長)というように、首相自ら岩城を援護射撃。陣営は「やっとここへきて並びかけてきた」(轡田倉治後援会連合会長)と手応えを口にする。
こうした攻勢に危機感を示すのが増子だ。25日に伊達市で行われた街頭演説で、増子は「安倍首相という横綱が私に向かってあらゆる手段を講じて圧力をかけている。その横綱を倒して福島から金星を取ろう」と声を張り上げた。応援弁士の演説中も、増子は集まった約30人一人ひとりと握手。その後も車道を走る車に向かって手を振ったり、頭を下げたりと、一人でも多くの有権者に自らを印象付けようと必死だ。「この福島で現職大臣を破れば、他の選挙区10個分ぐらいの価値がある」とし、政権批判票の取り込みを狙う。
ただ、5月に共産、社民と安保法制の廃止など4項目で合意したが、共産党からの推薦は辞退した。増子はかつて自民党に所属していたことから、保守系の支持者も多く、一定の距離を取る配慮を示す。
その一方で、伊達市で行われた増子の個人演説会(25日)で、司会から共産党の阿部裕美子県議が紹介されると、会場の一部からひときわ熱烈な拍手が起こった。県連幹事長の亀岡義尚県議は、「『共産党と一緒にやるの。えっ、どうなの』という方もいた。しかし、それだけ日本が危ないという思いで候補者の一本化を図った」と野党共闘の意義を力説した。
原発政策や復興推進の面では、両候補の主張に大きな違いはない。岩城が組織力や「民共」連携批判で増子の保守票を切り崩せるか、あるいは増子が無党派層に支持を拡大できるかが勝負の鍵を握る。(敬称略)
(2016参院選取材班)